ミュージアムインタビュー

vol.209取材年月:2024年1月八戸市美術館

収蔵庫内の探し物もデータベースが手がかりとなるので
慎重にデータの精査を進めていきます。
主査兼学芸員  齊藤 未来 さん

-開館3年目を迎えられましたが、齊藤さんは準備段階からこちらに?

齊藤さん:はい。2018年に新美術館建設推進室に異動してきたのですが、I.B.MUSEUM SaaSはすでに導入されていました。

-初めてご覧になった時の印象はいかがでしたか?

齊藤さん:実は、入庁以前の2012年から13年にかけて、出身地でもある岩手県立博物館で監視員として働いていまして。その時、学芸員のサポートでI.B.MUSEUM SaaSへの入力作業を手伝ったことがあるんです。

-そうだったのですか! その当時ですと、導入なさったばかりのタイミングでは。

齊藤さん:とてもしっかりした独自の入力マニュアルがあって、快適に利用できました。

-こちらでのシステム利用はいかがですか?

齊藤さん:私が着任した時点でデータが入ってはいましたが、主に項目がまだ整備し切れていませんでした。そこで、まずはデータのメンテナンスから始めることになったんです。

-着任直後から、今度はマニュアルを作る側のお立場になったわけですね。

齊藤さん:所蔵作品を把握できていない状態で、建物は建設中でしたので職場に収蔵庫がなく、作品を直接確認できない中での作業ということで、かなり難航しました。他館の収蔵庫を間借りしていましたので、データ上で気になることがあると出向いて見せていただいたり。

-データベースを精査する作業で実物が手元にないのは、相当厳しいですね。

齊藤さん:そうなんです。システムを本格的に使うのも初めてでしたので、慣れるまでは少し苦戦しました。まったくログインしない期間もあって、定着させられるか不安な時期もありました。でも、開館後は作品も館に集まりましたので、かなり楽になりましたね。

-ご苦労が偲ばれますね。お疲れさまでございます。

 


-さて、自館の収蔵庫が完成すると、今度は作品を確認しながらのデータ整備になりますね。

齊藤さん:はい、今も続いていますよ。たとえば、同じ作家の同じタイトルの作品で画像データがなかったり、実物側とデータ側で作品の名称が違っていたりすると、実物の確認が必要になりますから。

-作品名が違う? そんなこともあるんですね。

齊藤さん:ええ。同じ作品でも、寄贈リストにある名称と、作品を収めた箱に書かれている名前が合わなかったりすることがあるんです。理由としては、たとえば「完成時につけた作品名を、公募展に出品する時に作家さんご自身が変更した」とか。

-なるほど。ちなみに、それはどちらが正しいのでしょうか?

齊藤さん:それが、ケースバイケースなんです。まずいろいろと調べて、美術館として判断を下した上で登録することもあります。タイトル以外の周辺情報を頼りに足跡を辿っていくようなイメージでしょうか。

-うわ~、先が見えなくて大変な作業ですね…。外からは見えにくい隠れた努力ですし、精神的なご負担も大きいと思いますが、それをお一人で担当されているのですか?

齊藤さん:作品のサイズによっては周囲に手伝ってもらうことはありますが、現段階は基準がブレないようにすることも大事ですから、原則として一人で担当しています。

-本当に大変なお仕事ですよね…。では、館内では齊藤さんが集中的にI.B.MUSEUM SaaSをお使いなのでしょうか。

齊藤さん:いえ、クリップリストなどは館のみんなで便利に使っていますよ。私も、「展示や貸出の履歴も作れるので積極的に使ってくださいね」と声掛けもしたり(笑)。

-それは素晴らしい(笑)。

齊藤さん:展示歴や移動歴は後から登録することはできても、後から何度も入力するのは大変ですし、時間が経てば経つほどミスや間違いが起きる可能性も高くなります。それを億劫に思ってしまうと、せっかく整備しても結局使わない、使いにくいものになってしまうと考えていますので。

-館内業務へのシステムの定着をデータの再整備と同時に進めるというのは理想的ではありますが、なかなかできることではないと思います。すごいですね。

齊藤さん:ありがとうございます。

-その時はご負担もおありでしょうが、仰る通り、後々の活用頻度にも影響するはずですので、とても有効な手段だと思います。データの見直しは、あとどれくらいかかりそうですか?

齊藤さん:まだしばらくかかりますね。たとえば組作品などは本当に扱いが難しくて、熟知していないと収蔵庫の整理の時に作品が離れ離れになってしまうこともあるんです。そういう時こそデータベースを手掛かりに探すことになりますので、やはり精査が必要です。

-ものすごい労力ですが、未来の後輩さん方に感謝されるお仕事ですよね。弊社でお手伝いできることがあればお声掛けくださいね。

 


-それだけ深くデータに接しておられると、システムに気になることも出てくる頃では?

齊藤さん:これは公開側の機能かもしれませんが、ポケット学芸員は番号入力よりQRコードの方が便利かなという話は出ていますね。それに関連して、作品詳細情報を開く時にもQRが使えればいいなと思います。

-作品のラベルなどにQRコードを貼るわけですね(メモ)。タブレットはよくお使いですか?

齊藤さん:ええ。収蔵庫内もWi-Fiが届くようにしてもらったので、タブレットを持ち込んで、その場で検索したりしています。作品の状態で気になることがあると、その場で写真を撮って、直接手書きのメモを入れた画像をI.B.MUSEUM SaaSに登録していまして。この画像は、帳票にも出力できるようにしているんですよ。ほら、こんな感じで。

-(帳票を見ながら)お〜、これはすごい、流れるようなフローになっていますね! 手書きから帳票まで、これは本当にお見事だと思います。ほかにも使いこなしのアイデアはありますか?

齊藤さん:そう言えば、ワークショップに作家さんが講師として参加してくださり、収蔵作品をテーマにイベントを行ったことがあるのですが、この内容が本当に面白くて。

-他館でもよく耳にします。作家さんとのコラボレーション企画は人気が高いですよね。

齊藤さん:そうなんです。そこで、写真や映像を作品に紐付けてアーカイブできないかなと考えていまして。何かよい方法はありますかね?

-それはアーカイブが充実していきますね! 方法としては、そうですね、専用の大分類を作るのが効率的かもしれませんね。作品の関連資料として紐付けると、活用の際にも便利かと思います。

齊藤さん:なるほど。ほかにも、作家さんにはアートプロジェクトで新作を制作していただくケースなどもありますので、さっそく検討してみますね。

-まったくログインしなかった期間もあったとは信じられないほど使いこなしておられて、とても嬉しく思います。他館にもご紹介したいお話も多く、本日は勉強になりました。お忙しい中、本当にありがとうございました。

Museum Profile
八戸市美術館 「出会いと学びのアートファーム」をコンセプトに、2021年に開館した美術館。展覧会のほか、市民とともにアーティストや学芸員も参加してクリエイティブワークを展開する「プロジェクト」という活動に力を入れており、多様な参加型イベントが展開されています。このプロジェクトの場となるジャイアントルームは巨大空間で、気ままに立ち寄ってゆっくり過ごす人の姿も。まちの中心に出現したエネルギッシュな人気アートスポットです。

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