ミュージアムインタビュー

vol.208取材年月:2023年12月東海村歴史と未来の交流館

「館が地域に信頼されれば、資料は自然と集まる」
開館前に聞いた言葉を日々、噛み締めています。
学芸員  林 恵子 さん

-オープンから約2年半の新しい施設ということで、まずは開館までの経緯についてお聞かせください。

林さん:計画から開館までには紆余曲折がありました。ミュージアムの開館準備はどこも大変だと思いますが、東海村では文化財を保存・継承するための施設の建設自体が初めてという事情がありまして。

-なるほど、いろいろと手探りの状態だったわけですね。

林さん:それ以前に、計画段階で地域のご理解を得ることが大変だったそうです。ふたつの村の合併で東海村が発足した翌年に原子力研究所の設置が決まるのですが、住民の皆様はその新施設に関連する機関や企業などにお勤めの方が多いこともあって、「新しい村」という印象がかなり強かったようで。

-あ〜そうか、「時期尚早ではないか」というご意見が多くなりそうですね。

林さん:はい、実際に計画そのものが何度か暗礁に乗り上げたそうです。東海村で育った私でさえ、入庁後に「村にはこんな文化財があったのか」と驚いたくらいですから、それだけ知る機会が乏しかったということだと思います。

-地域としては長い歴史がありますよね。開館前は、資料はどう管理されていたのですか?

林さん:公共施設や倉庫の空いたスペースに分散して保管していました。と言っても、積極的に収集していたわけではありませんので、今ほど資料は多くはなかったのですが。

-そうなると、ますます開館の意義が問われることになりますね。

林さん:はい、多くの先生方に議論していただきました。その中で、ある先生から「資料がひとつもなくてもミュージアムを作るべきだ」という主旨のご意見がありまして。

-え? 資料がないのに博物館を?

林さん:ええ、「住民から信頼されれば、資料は自ずと集まってくる」と仰ったんです。ご指摘の通り、開館後は古文書や民具がどんどん集まっていますので、今はあの時のお言葉を噛みしめているんですよ。ここで生まれ育つ子どもたちに地元の歴史と文化を示す場の存在は、本当に有意義だと思います。

-素晴らしいお話ですね。仰る通り、今日はたくさんの子どもがロビーで遊んでいるのを見かけて、とても勇気づけられました。

林さん:ありがとうございます。当館が「ふるさとを知る場所」になれれば嬉しいですね。

-さて、実務面はどう進められたのですか?

林さん:当館は青少年センターとの複合施設で、最初のころは準備スタッフのうち文化財担当は私一人と非常勤職員の方一人でした。その後、少しずつ人員が増えて、開館前には考古・歴史・民俗・自然に一人ずつという体制になりました。

-ほぼお一人で取り組んでおられたのですか…大変でしたね。データ管理は?

林さん:歴代の担当者が各自で作っていたExcelがありましたので、それを手掛かりに現物と照合しながらまとめました。埋蔵文化財についてはさすがに数が多いので、非常勤職員の方々にお手伝いいただきましたけどね。

-さまざまな逆境を乗り越えての開館だったのですね。頭が下がる思いです。

 


-では、I.B.MUSEUM SaaSのお話を。ご導入は、開館と同時くらいのタイミングでしたね。

林さん:はい、みんなで手分けしてExcelでデータを準備しました。それまで問い合わせ対応などで苦労していましたので、情報をみんなで共有できるデータベースは必須という意見で一致していました。

-システム選びでは、比較検討をなさいましたか?

林さん:もちろんです、いろんな会社さんにお話を伺いました。でも、やはりどこも高くて(笑)。特に、独自で構築するとコストもメンテナンスも大変なんだなということがわかりました。

-ということは、I.B.MUSEUM SaaSをお選びいただいた理由は、やはり価格面ですか?

林さん:はい、月額3万円で全機能が使えるという点は魅力でしたが、ミュージアムパーク茨城県自然博物館に出かけた時に「ポケット学芸員」を試してみたんです。これは当館でも導入してみたいな、と思いました。

-ありがとうございます。実務で使い始めてみて、気になることはありませんか?

林さん:今はデータベースに淡々とデータを追加し続けていますので、特に気になることはないですね。ポケット学芸員も想定通りですが、もう少し動画が扱いやすいといいかなと思います。YouTubeの動画を組み込むより、直接登録できると便利では。

-最近は動画の活用が広がっていますので、少し考えてみますね(メモ)。システムの登録情報は、日常のどんなシーンでよくご利用になりますか?

林さん:展覧会の準備の時はクリップリストを多用しますね。あとは、画像を検索することが多いかな。昔の駅や学校、お祭りの写真などをよく探す気がします。

-地域の博物館では、写真は住民の皆さんからのニーズも高いですよね。帳票などは出力されていますか? 民具が多いなら、ラベルづくりに活用されている館もあります。

林さん:ラベルづくりは当館も実施していますよ。システムへの登録時に一緒に作って、決裁に回す時に添付しています。写真も、基本的な情報も揃っているので、管理の準備が一気に整いますよね。

-早くも上級者の使いこなしですね。大変失礼しました。

 


-それでは、今後についてお聞かせください。

林さん:ちょうど「にっぽん風景なび」の準備を始めたところなんです。村では「ウォーカブルなまちづくり」への取り組みの一環として「とうかいまるごと博物館」事業を展開しておりまして。各地に解説板を設置するには限界がありますが、スマホアプリならピッタリです。

-おお~、本当に使いこなしておられますね。

林さん:それから、村としてJリーグの水戸ホーリーホックのサポーターを務めている関係から、当館のポケット学芸員のナレーションは選手たちにお願いしているんですよ。

-え! それはすごい! 村から依頼されたのですか?

林さん:いえ、選手側から申し出てくださったんです。本当にありがたいですよね。

-Jリーグは地域密着を掲げていますが、それにしても素晴らしいです。ミュージアムにとっても、チームやファンにとってもメリットしかないような試みですよね。まさに好事例ですので、他館の皆様にもお知らせしますね。

林さん:ぜひぜひ。当館でも長く継続できればと考えておりますので、ご参考としていただけるように頑張ります。

-よろしくお願いします。では、今後の課題や目標などをお聞かせください。

林さん:現在、図書のデータ整備を進めています。システムにどう登録して、どう運用するかについては、また改めて御社にご相談させてくださいね。あとは、公開しているデータを増やすことかな。焦らず、少しずつ進めていければと思っています。

-最初から最後まで前向きなお話ばかりで、たっぷりと元気をいただいた気分です。弊社もぜひお手伝いさせていただきたいと思いますので、いつでもお声掛けくださいね。本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。

Museum Profile
東海村歴史と未来の交流館 広々とした芝生が隣接する開放的な空間に、博物館機能と青少年センターの機能を併せ持つ施設として2021年7月に開館。広いロビーには子どもたちが自由に遊べるスペースと、保護者が談笑しながら見守ることができるスペースが用意されています。二つの展示室には自然や土器、古文書などが所狭しと並び、創作活動や昔遊びなどの体験活動・イベントも活発。気軽に集って地域の歴史や文化に触れることができる、ふるさとのシンボルです。

〒319-1112
茨城県那珂郡東海村村松768番地38(歴史と未来の交流館)
電話番号:029-287-0851
ホームページ:https://www.vill.tokai.ibaraki.jp/soshikikarasagasu/kyoikuiinkai/shogaigakushuka/9/1/1/6270.html