ミュージアムインタビュー

vol.220取材年月:2025年4月いおワールドかごしま水族館

将来の業務のためにも、利用者への情報提供に続き
内部データベースの整備も積極的に進めていきます。
館長  佐々木 章 さん

-水族館のお客様は弊社でも珍しいのですが、以前の博物館大会で貴館のご担当の方が弊社のブースにお越しくださったことを覚えています。

佐々木さん:戻ってきて「面白い製品があったよ」と報告してくれたのが検討のきっかけになりました。ちょうど、当館ではデータ整理が課題になっていた頃で。

-どんなデータがあるんですか?

佐々木さん:まず写真が膨大にありますし、飼育記録や採集記録といった報告書類も多いですね。ファイリングされてはいても、どこにどの情報があるのか把握し切れなくなってきたんです。

-採集というと、館としてお魚を捕りに行かれるということですか?

佐々木さん:はい、そうです。船を出して潜って捕ったり、定置網にかかっている魚を集めたり、地元の漁師さんの船に乗せてもらうこともあります。鹿児島は内湾からサンゴ礁まで環境が豊かで、地元の海の生きものを中心に展示するという性格から、自然と採集が多くなるんです。

-そうした活動も記録するとなると、報告書もかなり細かな内容になりそうです。

佐々木さん:しかも、以前は各自が自由な書式で作っていましたので、かなり煩雑でした。どうにか揃えるようにしたのですが、そもそも紙のファイリング自体の管理が大変で。

-そのあたりの事情は、博物館の資料カードとよく似ていますね。

佐々木さん:そうなんです。だからこそ、博物館大会で知った博物館向けの収蔵品管理システムが、私たちにとっても課題解決の糸口になるのではないかと考えたんです。

-課題の本質は同じということですね。


-管理すべきデータの内容について、もう少し詳しく教えていただけますか。

佐々木さん:ファイルの種類としては、採集や飼育の報告のほかに出張報告や搬入記録、寄贈や購入のリストなどがあります。

-資料と紐付くものはI.B.MUSEUM SaaSで管理できると思うのですが、そもそも「1点」の概念が博物館とは異なっているかもしれません。水槽の中にいる群れを1匹ずつ管理するのは無理でしょうし…あ、魚は1匹という数え方でよいですか?

佐々木さん:私たちは「1点」と呼んでいます。魚は死んでしまったり、新たに加わったりするので、個体の数を常に正確に合わせるのは難しいですね。1点1点を管理するのは不可能ですので、マアジなら「マアジのページ」としてデータを作っていくことになります。

-でも、大きな生きものは個体で管理できそうです。

佐々木さん:はい、たとえばジンベエザメのような大型の魚や生物あれば、個体を識別して追いかけることも可能ですので、ゆくゆくはデータ化していきたいですね。

-種の情報と個体の情報が混在するデータベースの管理は、少し工夫が必要かもしれませんね。普通に登録していくと、「マアジという魚種」という情報と、「三代目・ジンベエザメのユウユウ」の情報が同列になってしまいます。

佐々木さん:確かに(笑)。棲み分けが必要ですね。

-もしかすると、雑誌のデータ管理が参考になるかも知れません。出版物としての情報と、各発行号に関する情報を混同することなく、きちんと構造化した上で管理している博物館もありますので、事例をご紹介できますよ。

佐々木さん:それはぜひお願いしたいです。ちょうど先日、当館が公開しているデジタルアーカイブ「錦江湾情報ボックス」の改善についてのスタッフミーティングでも話題になったところなんです。

-Web上の魚類図鑑として完成度の高いコンテンツですが、並行して館内業務で利用するデータも整備したいということですね。

佐々木さん:はい、御社からいろいろな資料をいただいて、ぼんやりとながら「このシステムならしっかりした内部データベースを構築できるはず」という感触を得ています。ただ、先ほどのお話の通り、思わぬ障壁に出くわす可能性もあるかな、と。

-最適なデータ構造の決定などについては、多数の博物館での経験を蓄積しておりますので、よろしければ弊社もお手伝いいたします。

佐々木さん:それはありがたいです、ぜひともお願いしたいです。でも、ユーザの一施設に過ぎないのに、そこまでお願いしてしまってよいのでしょうか。

-もちろんです。特殊な応用法であるほど弊社の経験値にもなりますし、ほかのユーザ様のヒントにもなると思いますので。


-博物館大会では館内データの整備に役立ちそうなシステムとして評価くださって、実際のご導入では錦江湾情報ボックスの構築・運用ツールとしてご活用いただいておりますが、ここに来て当初の目的に立ち戻ることになりますね。

佐々木さん:そうですね。もちろん、錦江湾情報ボックスもこれからコンテンツを拡充していく方針で、準備もかなり進んでいるんですよ。デジタルアーカイブの運用と並行して、館内データベースの再整備にも取り組んでいくことになります。

-具体的には、どんなデータを管理していくのですか?

佐々木さん:たとえば、イルカのチームが保有している調査データを、画像のストックと一緒に蓄積したり。

-なるほど、学術的な側面もあるのですね。内部業務と外部発信の両面でデータが充実していけば、水族館のIT活用のモデルケースになりそうです。

佐々木さん:当館としましても、向こう1年で将来の業務の基盤を作っていきたいと考えています。これまで多様な情報を蓄積してきましたが、蓄積だけでなく活用を見据えて整理していけば、次の世代の業務にもきっと役立つと思いますし。

-頼もしい限りです。でも、蓄積された情報量が膨大ですし、採集などのお仕事の大変さを考えると、データ登録はかなりの重労働になりそうな…。

佐々木さん:ええ、過去の情報をすべて一気に登録するのは厳しいので、まずはこれから情報を蓄積する際は、まずシステムに登録するという文化を根付かせたいと考えています。

-現実的なご方針だと思います。ところで、博物館のデジタルアーカイブ事例をご覧になる中で、水族館として「これはやってみたい」というアイデアはありますか?

佐々木さん:画像のダウンロードサービスはぜひ実現したいですね。魚類そのものの写真だけでなく、海岸や海中などよい画像がたくさんありますので、ぜひ地域の皆様にご活用いただきたいんです。ご覧になるだけでなく、使っていただくことで新たな気付きや知識に繋がると思いますので。

-素晴らしいお考えです。子どもたちはもちろん、大人の学習コンテンツとしても最適な素材ですよね。

佐々木さん:ありがとうございます。利用の際に申請をご提出いただくのは面倒だと思いますので、自由にダウンロードいただける仕組みを考えていきたいです。

-水族館のデータベース活用の先進事例となることを期待しております。弊社も可能な限りお手伝いさせていただきますので、ぜひお声掛けください。本日はご多忙のところ、本当にありがとうございました。

Museum Profile
いおワールドかごしま水族館 桜島を目前に望む絶好のロケーションにある水族館。地元の海の生きものを中心に約800種1万点を展示しています。ジンベエザメやカツオ・マグロなどが泳ぐ「黒潮大水槽」をはじめ、色鮮やかな熱帯魚や生きたサンゴ類を展示する「南西諸島の海」、「鹿児島の深海」「クラゲ回廊」「うみうし研究所」などに加え、イルカショーやガイドツアーも大人気。館内及びWeb上でも公開中のデジタルアーカイブ「錦江湾情報ボックス」にも注目です。

〒892-0814
鹿児島県鹿児島市本港新町3-1
TEL:099-226-2233
ホームページ:https://ioworld.jp/