- vol.221取材年月:2025年6月長井市
まずは小さくスタートして、少しずつ広げていくのが
デジタルアーカイブの公開への早道だと思います。長井市 観光文化交流課 観光文化交流室 係長 海藤 元 さん
-I.B.MUSEUM SaaSのご導入から「長井市デジタルアーカイブ」の公開まで、約半年という短期間で実現されましたね。
海藤さん:お陰様で、どうにか漕ぎ着けることができました。もともとはデジタルアーカイブを構築するという話ではなかったんですけどね。
-では、経緯を簡単に教えてください。
海藤さん:平成26年度から10年をかけた市史編さん事業で全6巻を刊行した後、より多くの方々にご覧いただくにはどうすればよいのかという話になりまして。ダイジェスト版の発行という案もあったのですが、むしろ本編を読んでもらえなくなるかもしれませんし…。
-なるほど、そこでデジタルでの公開となったのですね。
海藤さん:はい。ただ、市史をそのまま公開しても面白みがありませんから、写真や図版を中心に据えて、市史本文を要約した説明も加えて、図鑑のように読めるものがいいかな、と。それなら、博物館のデジタルアーカイブを扱うシステムを応用できるのでは、と考えたわけです。
-確かに、博物館の資料とも相性がよさそうです。
海藤さん:そんな経緯で、歴史や考古資料も活用しながら、長井市の歴史・文化の情報をまとめて楽しめるものを作るという方向に決まりまして。まずは初期投資を抑えて、あとは日常業務の範囲内で拡充していく仕組みを作ることにしたんです。
-無理なく進めるデジタルアーカイブづくり、まさにそのものですね。さすがです。
-システムの導入にあたっては、比較検討をされましたか?
海藤さん:当時、地域おこし協力隊の方がいろいろ調べてくださいました。私も以前から御社から資料をいただいていて、いつもお送りくださるインタビュー記事などには目を通していたんですよ。
-ありがとうございます。では、I.B.MUSEUM SaaSをご評価いただいたポイントは?
海藤さん:まず、「小さくスタートして少しずつ拡張しよう」という方針にぴったりだと感じました。あとは、データが増えても利用料が常に定額という点とか。最終的にどのくらいの規模になるのか分からないスタートだったので、データ量でコストが変わるのは後で困りますからね。
-多くの博物館で共通するお悩みです。それを解決したくて固定料金制にしたんです。
海藤さん:とてもありがたいです。もうひとつ、分類を自由にアレンジできるのも大きなポイントでした。市史関連から美術や考古など多様な資料を扱うことになりましたが、最初から情報を系統立てて整理するのは厳しいので、後で追加や変更が可能という柔軟性は魅力です。また、調達準備の時、仕様に無理やり登録するデータの分類を記載せずに済みますしね。
-博物館収蔵品が中心ではない事業にもお役立ていただけることが分かって、とても嬉しく思います。
-完成したデジタルアーカイブは、特設サイトも充実していますよね。「推したいテーマ」がしっかり伝わってくる感じで、とてもよく練られていると思いました。
海藤さん:ありがとうございます。いろいろな市町村の事例を見て、その土地のことを知らない方でも気軽に検索できるスタイルがいいなと思ったんです。私は長井市の文化財行政に携わってきましたのですぐに検索キーワードが思い浮かびますが、一般の方々は何を検索すればよいのか分からないでしょうし。
-まず、そのテーマについての分かりやすい説明があって、興味が湧いた方を検索一覧へとご案内するような作りなので、事前知識がなくても楽しめました。
海藤さん:それはよかったです。先ほどお話に出た地域おこし協力隊の方からも、ランディングページをしっかり作るようアドバイスをいただいたんですよ。
-ほかにこだわった点は?
海藤さん:常に動きのあるページにすることでしょうか。アクセスするたびに「おっ、何か増えているな」と感じてもらえれば、「また覗いてみようかな」という気分にもなりますから、とにかく更新することが大切かな、と。
-とても重要なことだと思います。でも、いざ実行するとなると、なかなか大変では。
海藤さん:今は市史のデータベース化を、元職員を含む3名の臨時職員の方々にご対応いただき、それ以外は私が担当しています。もうすぐ「長井市古代の丘資料館」の展示資料300点ほどを公開できそうなところまで来ました。
-それはすごい。順調そのものですね。
海藤さん:ほかにも、「文教の杜ながい」という施設にある美術や歴史・民俗資料など約1万点については、先ほどの地域おこし協力隊の方が基礎データを作ってくださいましたので、「文教の杜ながい」指定管理者と連携しながら画像を登録しながら少しずつ公開していく予定です。
-人数を考えると驚くほどの進捗ぶりです。では、システムで何か気になることはございませんか?
海藤さん:手分けして入力作業を行う時、常に分類を表示できるとありがたいですね。
-と仰いますと?
海藤さん:私は慣れているので分類が頭に入っていますが、ほかのスタッフはそうではありませんので、たとえば検索一覧を見ている時に「分類ツリー上のどの位置を見ているか」という現在地がひと目で分かるといいな、と思いまして。
-通販サイトなどでよく見る商品カテゴリのツリー表示のようなものでしょうか。もしそうであれば、実装の時期は未定ですが計画としてはリストアップされています。
海藤さん:それはありがたいです、ぜひお願いします。
-頑張ります(メモ)。今後についてですが、データの追加とともに、おすすめテーマも増やしていくのでしょうか。
海藤さん:はい、その予定です。いま公開している「長沼孝三の彫塑をめぐる」「菊地隆知コレクションⅠ」「芳文庫ギャラリーコレクション」のほか、画家や郷土作家は網羅したいですね。
-地元の小学生の郷土学習のテーマにぴったりですね。あとは、高齢の方々に向けた「昔の暮らし」をテーマ分けしたり。
海藤さん:見せ方にもこだわっていきたいですね。現在は、解説文の末尾にハッシュタグでキーワードを入れて誘導する方法を採用しています。こんな感じなのですが…(画面を見ながら)。
-お~、工夫されていますね!
海藤さん:ほかにも、市史を読みやすく短い文章にした「市史コラム」のシリーズとか。コラムに登場した資料へのリンクも用意しているのですが、今後は時代ごとに掲載しながら特定の時期について深掘りするというテーマも加えてみようかなと考えています。
-どんどんアイデアが出てきますね。これだけ多様な情報があると、その資料のゆかりの場所や写真の撮影地などにQRコード付きの看板を設置して、現地でもデジタルアーカイブを活用してもらうという仕組みなども作れそうです。
海藤さん:それも面白いですね。こんな具合に、アイデアを少しずつ実現していきますので、これからが楽しみです。
-「小さく始めて大きく育てる」という姿勢は、市町村のデジタル活用の模範にもなると思います。今後の発展に向けて、弊社もサポートさせていただきます。本日はありがとうございました。
- Museum Profile
-
長井市
最上川の舟運で栄えた「水のまち」として知られる山形県長井市。約500種100万株のあやめが群生するあやめ公園をはじめ、平安時代からの歴史を持つ伝統芸能「黒獅子」が一堂に会する『ながい黒獅子まつり』、国の登録有形文化財をリノベーションして地域交流施設として再生した旧長井小学校第一校舎、生産量日本一を誇る競技用けん玉など、四季を通じて話題と見どころが盛りだくさん。機械金属などの地場産業も発展し、地域資源を活かす持続可能なまちづくりが進められています。
〒993-8601 山形県長井市栄町1番1号
長井市観光文化交流課
TEL:0238-82-8017
ホームページ(長井市デジタルアーカイブ特設ページ):https://yamagata-nagai-archive.jp/