- vol.226取材年月:2025年8月石巻市博物館
教育関係者からの反響も大きいデジタルアーカイブ。
現場に貢献できるよう、今後も拡充を続けていきます。学芸員 伊藤 匠 さん
-2021年に開館した新しい博物館ということで、I.B.MUSEUM SaaSは開館前にご導入いただきました。デジタルアーカイブの公開を担当しておられる伊藤さんは、2023年にご着任されたとか。
伊藤さん:はい、そうです。システムはすでに稼働していて、全国美術館会議が文化財レスキューの際に活用したものを引き継いでいます。そのため、当館が継承する石巻文化センターの収蔵品については、文化財レスキューで残された修復歴まで登録されていました。レスキューの報告書の巻末に目録があり、そこに修復の過程が記載されているのですが、修復などを担当された方々がそれらの情報までしっかり登録くださっていて。
-作業の記録が新規開館の博物館に受け継がれて活用されているとは、文化財レスキューに関わられた方々もきっとお喜びでしょうね。では、被災前に作られていた目録などは? やはり消失したのでしょうか。
伊藤さん:はい、なにぶん執務室が完全に水没してしまいましたので。ただ、HTML形式の古い目録データや、文化センター開館前後に作成された紙媒体の目録は残り、その他には博物館開館に向けた業務の中でExcelで作成された目録がありました。そこで、さまざまな過去データを合わせる形で作成しました。
-民俗資料についてはいかがですか?
伊藤さん:残念ながら、民具も津波のダメージを受けてしまいましたので、いま目録を作成して公開しているのは開館後に受け入れたものが中心なんです。これらのデータについては、他館の事例などを参考にしながら何とか作業を進めています。
-今年に入って、収蔵品データベースを公開されましたね。内容を拝見しましたが、ご着任から2年ほどでこれだけのデータを整備して公開されるとは、驚きました。
伊藤さん:ありがとうございます。以前に勤務していた館で先輩にご指導いただきながら目録作成に携わっていましたので、その経験が活きたのだと思います。
-それでも、館ごとに特色のある資料も少なくないですから、かなりご苦労されたのでは。
伊藤さん:そうですね、当館も個性的な資料が多いです。たとえば、「毛利コレクション」は10万点ほどで構成されているのですが、マッチラベルだけでも8万点もあるんですよ。
-えっ、マッチ箱のラベルだけで8万点! それは大変ですね。
伊藤さん:石巻で生まれ育った故毛利総七郎氏が収集されたものなのですが、ほかにも生活用具や石巻の鋳銭場の資料、刀装具や古文書など、本当に充実したコレクションで。
-実際に、石巻文化センターを改修して常設展示する予定だったとうかがいましたが、そこまでとは。あとで見学させてください。
-データベースが文化財レスキューを含めた多様なデータの集合体だとすると、それをひとつのデジタルアーカイブとして公開するには、情報の整理だけで大仕事ですよね。
伊藤さん:そうですね。でも、先輩方が博物館開館に向けた準備室の時代からデータ作成を進めてくださっていたこともあって、デジタルアーカイブに活用するための目録データづくりにじっくり取り組むことができました。
-具体的にはどんな点を重視されたのですか?
伊藤さん:資料群の情報をしっかりと目録に反映させるという視点から、特に階層の構造づくりは試行錯誤しました。アーカイブズ学の階層構造を意識しながら項目を検討して、全体の中でそれぞれの資料の位置づけを示せるように工夫しながら、利用者の方々の利便性を組み合わせる形で考えました。
-かなり細かく計算されているのですね。それをシステム上で実行するには、I.B.MUSEUM SaaSの項目設定機能を駆使することになりそうですが、操作は難しくはなかったですか?
伊藤さん:最初はまごつきました(笑)。でも、作業しているうちに慣れてきて、気がついたら形になっていました。
-項目を自由に変更できる点はご評価いただいているのですが、さほど頻繁に使う機能でもないので、難しいとお感じの方もおられまして。
伊藤さん:お気持ちは分かります(笑)。そうそう、項目設定機能と言えばひとつお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?
-もちろんです。ぜひお聞かせください。
伊藤さん:設定はしたけれど使っていない項目は、どうすればよいのでしょう? 削除しても影響はないものなのでしょうか。
-ご心配であれば、表示しないようにすることができますよ。新しいインターフェイスから導入した機能なのですが。
伊藤さん:インターフェイスと言えば、新しくなってから画像をまとめて登録できるようになりましたよね。本当に助かっています。
-お役に立っているのであれば何よりです。画像登録の進捗具合はいかがですか?
伊藤さん:いまは資料情報を8千点ほど登録・公開しています。まだまだですので、これからどんどん進めていきますよ。
-期待しています。特にマッチラベルはデザインの個性が豊かで、画像点数が充実すれば注目が集まりそうなので、今から楽しみですね。
-さて、データの登録や項目設定、公開の機能は使いこなしていただいていますが、その他の細かい機能についてはいかがでしょうか。たとえば、クリップリストとか。
伊藤さん:便利そうだとは思っているのですが、まだ利用する機会がなくて。ここまで、とにかくデジタルアーカイブを公開することを目標に据えてやってきましたので。
-なるほど、細かい機能はこれからなのですね。システムがお仕事のご負担を軽くするような使い方をご提案できるかも知れない、と思いまして。
伊藤さん:それはありがたいです。たとえばどんな機能ですか?
-帳票作成機能を上手く使って書類作成の手間を軽減するとか。先ほどの項目や階層のお話や館内での情報共有方法なども含めて、他館の事例も豊富にご紹介できますので、操作と活用法について改めて説明会を開催させていただくことはできますか? ほかの皆様にもご参加いただいて。
伊藤さん:それはありがたいです! ぜひお願いしたいです。
-承りました。職員の皆さんで手分けしてデータを整備できるようになると、公開点数を増やすペースもさらに上がっていくと思いますよ。では、最後に今後の目標などをお聞かせください。
伊藤さん:公開したデジタルアーカイブを学校の先生方に見ていただいたのですが、とても反応が良かったので、今後も教育現場でどんどんお使いいただけるよう積極的に働きかけていきたいでと考えています。
-学びはもちろん、地域の子どもたちが地元に愛着を抱くきっかけとなって、実際に館に足を運んでもらえる動線を定着できたら理想的ですよね。弊社も全力でサポートできるよう頑張ります。本日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。
- Museum Profile
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石巻市博物館
東日本大震災で被災した石巻文化センターを継承し、「大河と海に育まれた石巻」をコンセプトに2021年に開館した博物館。常設展示では、先史・古代・中世・近世・近現代の5つの時代で構成される歴史文化展示室や、石巻出身の彫刻家・高橋英吉作品の展示室、歴史資料から美術工芸品まで内包する毛利コレクションの展示室などを展開。石巻市の複合文化施設内にあり、大人から子どもまで常に多くの人々で賑わう人気のミュージアムです。
〒986-0032
宮城県石巻市開成1-8 マルホンまきあーとテラス
電話0225-98-4831 ファクス0225-98-4832
https://www.city.ishinomaki.lg.jp/museum/