- vol.229取材年月:2025年12月下関市立考古博物館
目録づくりとそのデータベース化とともに
ユニバーサルな博物館づくりにも取り組んでいきます。館長 濱﨑 真二 さん
文化財保護課長 岡本 正康 さん
主任(学芸員) 小林 善也 さん

-弊社には、令和3年頃でしたか、最初はポケット学芸員のことでお問い合わせをいただいたんですよね。
小林さん:そうでしたね。ユニバーサルな博物館づくりを目指す一環として、音声解説の導入を検討していたんです。
-展示を見ながら聞くものと言うよりも、主に目の不自由な方のためのサービスを意図されていたのですね。
濱﨑さん:そうです。今はまだナレーション収録の準備ができていないので、画像とテキストで案内しているんですけどね。当館の常設展示室にパネルを掲出するスペースが少ないので、その代わりとしてポケット学芸員を利用しています。
-ナレーションがまだ実現していないのは、制作費などの問題でしょうか?
小林さん:いいえ、そこではないです。当館のマンパワー不足もありますが、原稿づくりが難航しているんです。
-どういうことでしょう?
小林さん:目の不自由な方に向けたナレーションは、解説テキストを音読するだけでは意味がなくて、たとえばその資料の形や大きさなどから説明が必要になりますし、抑揚を抑えたアナウンスも求められたりするそうなんです。これまでも全盲の方に展示解説を行ったことがあるのですが、頭の中で展示品の姿が思い浮かぶような説明内容でなければ、ご理解いただきにくいんです。
-なるほど、一般向けの解説文とはまったく内容が異なるわけですね。文章の作成には特殊なスキルが必要になりそうです。
小林さん:解説が長くなりすぎてもダメですからね。現在、視覚に障害のある方への音声情報の提供を目的に音訳活動をされているボランティア団体へご協力いただけるか調整中なのですが、いずれにしても、その音訳の材料となる元の文章はこちらで用意しなければならないので、それなりに時間がかかることが予想できます。
-完全にお任せすることは難しいですもんね。
小林さん:はい。とは言え、前に進まなければなりませんので、来年度くらいには一部だけでも実現したいと考えています。
-ありそうでなかなか見かけないプロジェクトですね。とても価値あるお取り組みですので、実現が楽しみです。。

-ところで、I.B.MUSEUM SaaS本体のご利用についてはいかがでしょうか。
小林さん:ちょうどデータベースづくりを進めているところです。これまで完全に整理された目録はなかったので、試行錯誤しながらですけどね。
-考古は、ほかの分野に比べてデータベース化が難しいですよね。
濱﨑さん:そもそも出土したものをすべてデジタルデータ化するのは現実的ではありませんし、土器の破片はどこから「1点」と判断するかなど、まず考え方から整理しなければなりませんからね。後で困ることにならないようにと考えると、なかなか難しいです。
-復元して展示できるようになったものを最小単位にする館、コンテナ単位で目録を作る館など方法はさまざまですが、土器片の段階から登録されるケースは非常に珍しいと思います。目的や体制などをもとに、理想と現実をすり合わせながら最適な方法を探らざるを得ないですよね。
小林さん:はい。当館でも、まず常設展示室にあるものから目録化して、データベースに登録する作業には着手していますので、これに関しても1年後くらいを目処にある程度の形にできればと考えています。
-展示資料の目録化でしたら、ポケット学芸員用に登録しておられるデータも活かすことができるのは。
小林さん:ポケット学芸員のデータは展示物ではなく展示ケース単位で作っていますので、各資料には紐付いていないんです。ひとつの文章で複数の資料を解説していますから。
-なるほど、考え方が違いますね。やはりコツコツと進めるしかなさそうですね…。
小林さん:でも、将来的には明るい話題もありそうなんですよ。
-どんなことでしょう?
小林さん:最近、下関市立歴史博物館でも御社のシステムを導入したようなので、ここで頑張っておけば、将来は下関市全体の博物館資料のデジタルアーカイブにまで発展させられる可能性を秘めているのでは、とか。まだまだ先の話ですけどね。
岡本さん:私は以前、美術館にいたことがあるのですが、分野をまたいで統合する仕組みになるといいですね。
-はい、最近は実際にそうした事例が増えてきましたよ。館によって目録体系がまったく異なりますので、それぞれ独立したシステムを導入して、別に構築したサイトでWeb APIを使って連携するケースが多いようです。市の文化資源全体を横断的に検索する仕組みは可能ですので、その段階が近づきましたら別途ご提案いたしますね。

-さて、システム及びポケット学芸員をお使いいただいて、気になることなどはございませんか?
小林さん:I.B.MUSEUM SaaSはリニューアルして使いやすくなりましたね。ポケット学芸員も便利なのですが、アプリをダウンロードしていただくためには、少し工夫が要るかなと思います。
-ダウンロードにハードルの高さを感じる方もおられるということでしょうか。
小林さん:はい。他館でお使いの方はよいのですが、当館で初めて知った場合、そこからダウンロードの行動を起こしてくださる方は何割くらいいるのかと考えると、利用促進策が必要かな、と。
-ポケット学芸員はすでに200館以上でご利用いただいていますので、弊社でもPRの強化を考えております。それとは別に、アプリではなくWeb版としてのリニューアルも検討を始めました。実現すればWebブラウザで利用できるようになります。
濱﨑さん:それはぜひお願いしたいですね。市内の小中学生は一人1台のタブレット端末が与えられているのですが、そこにインストールできるアプリには制限があるんです。Webブラウザだけで利用できるのであれば、学校では格段に利用しやすくなるはずです。
-なるほど。そう考えると、学校はもちろんですが、自治体でもポケット学芸員をインストールできないケースもあるかもしれませんね。ポケット学芸員のWeb化は少し急いだほうがよさそうです(メモ)。
岡本さん:当館は市内の小中学生の利用がとても多いので、ぜひお願いしたいです。
-かしこまりました(メモ)。実現するまでの「つなぎ」ということになりますが、ポケット学芸員ではなくデータベースの公開ページを展示案内ようにお使いの館もありますよ。その資料の詳細ページのQRコードを展示の前に掲出しておくだけですので、簡単にご導入いただけます。
小林さん:確かに使いやすそうですが、使い分けが難しくなるのでは。
-確かに管理にはやや注意が必要になりますが、I.B.MUSEUM SaaSには2種類の公開ページを使い分ける機能がありますので、現在お取り組み中の目録の公開とは別にご対応いただけますよ。目の不自由な方向けの音声の準備が整ったら、そちらはポケット学芸員で配信することができますし。
小林さん:なるほど、交通整理すればすっきりできそうですね。発信する情報が整ってきた段階で、また改めて相談させてください。
-はい、いつでもお気軽にご連絡いただけば、状況に応じてご提案いたします。本日はお忙しい中、とても勉強になる話をたくさんお聞かせいただき、本当にありがとうございました。
- Museum Profile
-
下関市立考古博物館
国指定史跡の綾羅木郷遺跡に隣接する下関市立考古博物館は、1995年の開館から30周年を迎えました。館内では市内の弥生・古墳時代を中心とした土器や石器、古墳副葬品など、貴重な考古資料を数多く展示。近年では、ユニバーサルな博物館を目指すなかで、さわる考古資料の展示にも力を入れていますさらには、下関市産の恐竜の卵化石の展示もあり、市内の学校から訪れた子どもたちの姿で賑わっています。広大な史跡公園も整備され、学びと散策で充実の休日を過ごせる人気施設です。
〒751-0866
山口県下関市大字綾羅木字岡454番地
TEL:083-254-3061
公式ホームページ:https://www.shimo-kouko.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/shimonosekicity.koukohaku/
公式X:https://x.com/shimokouko
公式Instagram:https://www.instagram.com/shimonoseki_koukohaku/

