ミュージアムインタビュー

vol.237取材年月:2026年7月古川美術館

情報管理の強化策として、災害への事前対策として。
クラウド型システムへの移行で、しっかり解決できました。
副館長 学芸課長 林 奈美恵 さん

-I.B.MUSEUM SaaSのご導入から3年ほど経ちますが、それ以前はどんな状況だったのでしょうか。

林さん:私が着任した20年ほど前に、検索システムを作り始めました。Excelと紙で管理していた頃から、財団として「所蔵作品をお見せしなければ」という想いがあったようで、常設展を持たない代わりにデジタルでの情報発信は重視していたんです。

-2000年代半ばなら、かなり早くから取り組んでおられたことになりますね。当時はどんなシステムだったのですか?

林さん:地元のシステム開発企業さんにオーダーメイドで開発していただきました。快適だったのですが、サーバー導入型なのでOSのバージョンアップへの対応などが大変で。

-分かります。当時のシステムの宿命でしたよね。

林さん:その後、作品の落下防止などの地震対策を進める中で、並行して館内のさまざまなシステムをクラウドへと移行していきました。また、ジャパンサーチとの連携を目指すこともあって、作品データベースもクラウド化したかったのですが、なかなか難しくて。そんな時に、御社のサービスを知りました。

-ちょうどコロナ禍の時期でしたね。

林さん:はい。あの期間にデータの整理や作品の場所の確認なども行いましたので、導入後は作業効率が上がりました。

-たとえば、どんな効果がありましたか?

林さん:以前はシステムが入っている端末は台数に限りがあって、交代で使うしかありませんでしたが、今は収蔵庫に自分のノートPCを持ち込んで作業できるようになりました。その場で入力すれば、収蔵庫から席に戻るまでに忘れてしまうこともないですし(笑)。

-収蔵庫での使い勝手は、さらなる改善を検討しています。計画が固まったら、改めてご案内しますね。


-少し話が戻りますが、システムの移行はスムーズに進みましたか? 元のシステムが作り込まれていた分、大変だったのでは。

林さん:旧システムは分類が細分化されていて、現場のニーズ通りだったのですが、増えすぎてしまって。どの分野にも属さないものがあると、たとえ1点でもひとつの分類を作ったりして、結果的に膨大な数になってしまって。

-お気持ちはよく分かりますが、データベースとしてはあまりお勧めできる形ではないですね。

林さん:はい、御社の担当の方からも「このままでは確実に使いにくいものになるので、分類はある程度まとめるべき」というご提案をいただきました。それまで積み重ねてきたデータですので現場的では葛藤もありましたが、すでに入力の基準が人によってまちまちで検索がうまくヒットしなくなりつつあったので、アドバイスに従うことにしたんです。

-データ移行に合わせて分類を整理されたのですね。結果はいかがでしたか?

林さん:大正解でした。登録した人の感覚で分類が変わることがなくなって、検索時もきちんとヒットするようになりました。整理にはかなり時間がかかりましたが、アドバイスをくださった担当の方には本当に感謝しかありません。

-お役に立てたようで何よりです。検索以外でシステムをよくご利用になるシーンは?

林さん:当館には爲三郎記念館という分館が近隣にあるのですが、そこに運び出す際に資料利用の機能をよく使います。予約や重複チェックなどをしっかり管理できますし、「燻蒸中」といった細かい情報もひとつひとつメモできるので助かります。

-分館でも展示されるということでしょうか。

林さん:あちらではお茶会を開いているので、そこで茶器などを使うんです。一度使用したらアルコールで消毒して、3か月は乾かして…。

-え、一般の方がお越しになるイベントで実際に使用するのですか! ご参加の方々も貴重な品であることはご理解になるでしょうが、勇気が要りますね…。

林さん:創設者が「みなさん、さぁどうぞ、どうぞ」といった感じで、気さくにもてなすタイプの人物でして。私たちもそれに倣って、バックヤードの苦労はお見せすることなく、純粋にお楽しみいただきたいな、と。

-なるほど、粋ですね〜。でも、そうなると使用の履歴はとても重要になるのでは。

林さん:仰る通りです。だからこそ、入出庫業務がスムーズになって、履歴をデータとしてきちんと残していける環境がありがたいんです。おかげさまで、いつ出したか、誰が担当したかといった情報が正確に記録されて、誰でもひと目で分かるようになりました

-管理という意味では、作品の状態に関する情報も重要ですよね。最近は、I.B.MUSEUM SaaSの帳票機能で作品の調書を作成する美術館も多いのですが、そのあたりはいかがでしょう。

林さん:当館では、調書はAdobe Illustratorを使っています。

-情報を蓄積していくタイプの管理になりますが、使いやすいですか?

林さん:慣れれば大丈夫ですよ。何度も書き足す部分はレイヤーを分けるので、以前のコンディション情報もひとつのファイルに格納できますし。

-なるほど、それはいいアイデアですね。I.B.MUSEUM SaaSからリンクできるとよいかもしれません(メモ)。ところで、作品の寄託はありますか?

林さん:ありますよ。出し入れが多いので手書きからシステムに移行できたのはよかったのですが、お預かりするである以上は保管が大切という側面もありますので、分類を所蔵・寄託・借用・備品に分けて管理しています。

-備品もあるのですか。

林さん:はい、館内の調度品として使用しているものなどですね。分館の掛け軸や花器もそうですし、いただきものの器などもそのつど登録しています。

-なるほど、館内のさまざまな情報が一元管理されているわけですね。


-現在は作品データも公開しておられますね。

林さん:ええ、公開に漕ぎ着けはしたのですが、やはり難しいですね。著作権など解決しなければならない課題もあって、正直、十分とは言えません。

-いきなり完全な状態で公開できる館はごく少数ですので、他館の公開ページも参考になさりながら、少しずつ改善していけばよいと思います。ちょうど最近、公開事例のデータベースを作りましたので、こちらで他館のページをご覧になってください。

林さん:(ページを見ながら)あ〜、いいですね、これ。あとでじっくり拝見しますね。

-ぜひぜひ。あとは、ポケット学芸員もご利用いただいていますね。

林さん:はい、インバウンド対応として英文での解説も配信しています。展覧会ごとにテンポよく入れ替えていきたいのですが、準備のさなかに日本語の解説を仕上げて、それを翻訳して…となると、なかなか追い付かなくて。

-過去の解説を蓄積して再利用するにしても、展示の文脈が違うと同じ作品でも内容が変わるでしょうし、難しいですよね。このあたりは、他館の方にもどう工夫されているのか聞いてみますね(メモ)。

林さん:ぜひお願いします。

-かしこまりました。本日は、勉強になるお話をたくさん伺えました。お忙しい中、本当にありがとうございました。

 

Museum Profile
古川美術館 初代館長でもある古川爲三郎氏の「私蔵することなく広く皆様に楽しんでいただきたい」という想いのもと、長年収集してきた美術品の寄付を受けて平成3年に開館。近代日本画を中心に、油彩画や陶磁器、工芸品など約2,800点を所蔵しています。私邸も「爲三郎記念館」として開館し、平成30年には登録有形文化財に登録されました。美しい日本庭園を眺めながらカフェで寛ぐなど、アートと癒しの贅沢なひとときを過ごせる人気スポットです。

〒464-0066
名古屋市千種区池下町2-50
電話番号 052-763-1991
ホームページ:https://www.furukawa-museum.or.jp/