ミュージアムインタビュー

vol.239取材年月:2026年8月松前町教育委員会

大切なのは、誰にとっても分かりやすく、使いやすいこと。
それは、オンラインでも展示室内でも変わりません。
主任学芸員 西川 萌 さん

-西川さんはいつ頃ご着任になったのですか。

西川さん: 2018年です。当時は紙の台帳での管理が中心で、一括でご寄贈いただいた資料についてはそれぞれExcelのリストがありました。職員が探し切れない時は、町内にお住まいの元文化財課の大先輩にお話を聞きにうかがったり。実は、今でもご協力いただいているんですよ。

-現在は『まつまえ文化財ずかん』という素晴らしい出来栄えのデジタルアーカイブを公開しておられますので、隔世の感がありますね。その間に何があったのでしょう。

西川さん: 2020年のコロナ禍を機に、ご来館いただかなくても楽しめる鑑賞方法を模索し始めたんです。

-「おうちミュージアム」が流行った頃ですね。では、その前後にシステムの導入をご検討いただいたのでしょうか。

西川さん:そうですね。それまでは、御社から届く資料を読んでも「こういう仕組みがあったらいいね」という感じでしたが、この頃には真剣に取り組む前提で検討を進めました。町の3つの小学校がICTに積極的で、一人1台のタブレットを完備していましたし。

-その結果、2024年にI.B.MUSEUM SaaSを導入いただいたわけですが、『まつまえ文化財ずかん』の公開は今年3月ですよね。この短期間で、よくあれだけ充実したコンテンツを整えられましたね。

西川さん:登録できたものから順次公開するというスタンスで進めています。また、一般向けの『松前町文化財デジタルアーカイブ』はI.B.MUSEUM SaaSの公開機能を活用していますが、子ども向けの『まつまえ文化財ずかん』にはWeb APIを使うなど、役割分担させる形にしたり。

-すごいですね。どこかでデジタルアーカイブに携わった経験がおありなのですか?

西川さん:いえ、ここが初めての職場ですので。著作権に関しては専門家にアドバイスを仰いだり、デジタルアーカイブ全般については奈良文化財研究所で研修を受けることができたりと、何かと恵まれた環境にいることも大きいと思います。

-オープンライセンスで公開されているものも多いようですが、もともと町として情報公開やコンテンツの流通促進に積極的だったのでしょうか。

西川さん:そのあたりは、私も含めたみんなで意識改革が必要でした。持っている情報資産は公開すべきですし、画像もできれば申請の手間をおかけせずに利用できる環境を提供するのが望ましいですし。

-それを実現するには、しっかりしたルール作りが必要になりますよね。

西川さん:仰る通りです。そこで当館では、独自のガイドブックを作ってみたんです。フローチャートを作成して公開可否の判断などに使っているのですが、こんな感じで…。

-(実物を拝見しながら)これは素晴らしい、知識の習得方法から実務上の判断基準まで、必要なことが網羅されているじゃないですか。弊社の社内研修でも使わせていただきたいくらいです。


-さて、『まつまえ文化財ずかん』は隅々まで子どもたちへの配慮が溢れていますが、特に気を配った点などはありますか?

西川さん:以前は、たとえば民具の学習で小学生が来館する時には、事前に学校へ紙のカードをお渡ししていたんです。でも、それは私が選んだものですので、子どもたち自身の関心には基づいていないですよね。そこで、自分が興味のあるものを実物で学ぶ、そんな学習体験を提供したかったんです。

-どのページもスラスラ読める分かりやすさなので、子どもたちも興味を持ちやすそうです。

西川さん:このスタイルの授業は今年から本格的に導入されるので、サイトのルールや使い方の説明も平易な文章にして、著作権についても学べるようにしました。解説文は、指導主事の先生に監修していただきながら仕上げたんですよ。あとは、AIにもヒントをもらったり。

-言葉づかいが易しいと言うより「優しい」ですよね。検索でヒットしなかった場合は「さがしたけれど、見つかりませんでした」という表現になっていたりして、本当に丁寧に準備されているなあと感心しました。漢字・かな使いの基準はどう設定されたのですか?

西川さん:漢字は小学4年生までに習うものだけを使っています。5年生以上で学ぶ漢字があると指摘してくれるWebサービスがあるので、そちらも活用しました。

-ご自身の努力と外部の専門家の知見、そしてITの力も駆使して制作されたのですね。I.B.MUSEUM SaaSの機能も使いこなしておられますが、普段のお仕事でのご利用についてはいかがですか? 何かお気付きのことはおありでしょうか。

西川さん:実は、資料管理業務での利用については、まだまだこれから…という段階なのですが、データ登録に関連する機能はよく使います。Excelからの一括登録や一括更新は、データを見渡しながら表記揺れや記述ルールに気付いたりできるので、とても便利ですよね。

-そこまでお使いなのであれば、管理業務でもすぐにフル活用できるようになりますよ。ちなみに、画像の登録についてはどうされていますか?

西川さん:画像も一括で作業しています。そうそう、それで思い出しましたが、画像照合アップロードの操作は少し難しいように感じました。

-そちらにつきましては、ちょうど今週に改善されたところでして。正式なご案内はこれからなのですが、できるだけ早く操作説明を実施しますね。

西川さん:ぜひお願いします。あとは、3Dデータのビューアがもう少し見やすくなるとありがたいです。

-ご指摘をありがとうございます、持ち帰って社内で議論してみます(メモ)。


-では、今後に向けての構想などがありましたらお聞かせください。

西川さん:当館は冬季には休館となるのですが、その間にNFCを使って案内できる環境づくりの準備を進めようと思っています。

-資料の前でスマホをかざすと『まつまえ文化財ずかん』の該当ページが表示されたりすると、子どもたちも大喜びですね。ただ、NFCはタグの費用が掛かるので、QRコードで対応する館が多いようですが。

西川さん:でも、カメラを起動するひと手間があるかないかで、快適さはかなり違うと思うんです。利用者の方々のことを考えると、できればNFCにこだわりたいところです。

-なるほど。分かりやすさ、使いやすさをとことん追求しておられるのですね。そう言えば、『まつまえ文化財ずかん』にも丁寧なルビが振ってありますね。

西川さん:ルビについては、気になることは自分で調べる子が多くて、なくても問題ないようですけどね。でも、オンラインでも展示室でも、使いやすさを考えることはとても大切だと思うんです。

-分かりやすいコンテンツは、年齢や立場に関係なく使ってみたくなるものですよね。

西川さん:最近は、私自身も調べ物をする時に『まつまえ文化財ずかん』を開くこともあるくらいで(笑)。

-あのクオリティなら、私でも使うと思います。本日は、よい刺激をたくさんいただきました。お忙しい中、本当にありがとうございました。

Museum Profile
松前町教育委員会 北海道最南端に位置する松前町は、江戸時代には最北の城下町として栄えました。その中心を担った松前城は、桜の名所として全国的にも有名です。町内には、遺跡から出土した土器や箱館戦争に関する資料などを展示する松前町郷土資料館と、復興天守の内部で松前城の歴史やゆかりの資料を紹介する松前城資料館の2館が開館中。両館ともに充実の展示を楽しみながら、北の大地に花開いた独自の文化と歩みを多角的に辿ることができます。

〒049-1594
北海道松前郡松前町字神明30番地 松前町町民総合センター内
電話 0139-42-3060
ホームページ:https://www.town.matsumae.hokkaido.jp/bunkazai/category/220.html
まつまえ文化財ずかん:https://www.town.matsumae.hokkaido.jp/bunkazai-zukan/