ミュージアムインタビュー

vol.35取材年月:2007年5月兵庫県立美術館

大切なのは、「導入したシステムで何をしたいのか」。
ここをきちんと検証すれば、使えるシステムに近づきます。
学芸員 服部 正さん
学芸員 田中 千秋さん
学芸員 速水 豊さん

-こちらは、大手SI企業がメンテナンスを担当しておられるようですね。収蔵品管理からイントラネットまで、トータルに管理しておられるとか。

速水さん:そうですね。スタッフの方が常駐してくださっているんですよ。

-それは心強いですよね。道理で、弊社に直接お問い合わせいただく機会が少ないわけですね(笑)。もともとは、どんな管理方法だったんですか?

服部さん:前身の県立近代美術館の時代からファイルメーカーを使っていましたね、データ整備には。

-ファイルメーカーをお使いの方は、思ったよりたくさんいらっしゃるんですよね。やはりあの柔軟性は魅力なんでしょうか。

田中さん:ええ、そういう人も多いかもしれませんね。私は今でも使っていますし。

-えっ? 今でも? ということは、I.B.MUSEUMはお使いではないんですか?

田中さん:いえいえ、ちゃんとI.B.MUSEUMも使っていますよ。ただ、ねえ?

服部さん:ええ。場面によって使いにくいところもあるんですよね。

-と仰いますと?

服部さん:たとえば、作品のキャプションなどはファイルメーカーで作っています。特に、I.B.MUSEUMの外で加工・修正したデータは、そちらが最新版になってしまいますから、I.B.MUSEUM内のデータと整合性が取れなくなっちゃって。

-なるほど、更新が滞っておられる、と…(激しく動揺中)。ご都合がおありだとは思いますが、せっかくご導入いただいたシステムですから、ぜひフル稼働を実現いただきたいところなのですが…。本日は、ぜひ重点的にお聞かせください。

-I.B.MUSEUM後も市販のデータベースソフトを併用されるケースは、実は時々見かけるんですよ。たとえば、堅牢なI.B.MUSEUMはデータの格納庫、柔軟なファイルメーカーは加工ツールとして使い分ける…といった感じなんですが。

服部さん:そうでしょうね。私も、その考え方は正しいと思いますよ。

-では、そんな使い方はいかがでしょう?

服部さん:できればそうしたいんですが…。加工したデータをI.B.MUSEUMに戻すときに、1個ずつ手打ちしなければならないでしょう? たとえば、数百点に共通するある特定の語句の表記を変更する場合がありますよね。そんな時は、I.B.MUSEUMの作品詳細画面を一つ一つ開いて、1作品ずつ繰り返し入力しなければならなくて。ちょっと手間がかかるかな、と…。

-(あっ、なるほど!)申し訳ありません、いまのバージョンは一括登録機能を搭載していますので、その面倒はおかけしない仕様になっておりまして…(大恐縮)。

服部さん:あ、そうなんですか! それは残念だなあ。ここさえ解決できるなら、いま使っている機能をもっと幅広く活用したいんですけどね。

-たとえば、どんな部分でしょう?

服部さん:いろいろありますよ。たとえば、出品歴などがデータベース化できたのは、大きなメリットを感じます。今までは年報を調べるしか方法がなかったのですが、作品ごとの時系列データではないので、手間がかかって大変だったんです。

-作品を大切に保存するという観点から、作品ごとの出品の履歴情報を重視される館は多いですよね。

服部さん:常設展の履歴も残せるようになりましたし、便利ですよね。そうそう、図版を見ながら作業ができるようになったことも大きいですよ。もちろん「こんな機能があればなあ」と思う点もありますが、ラクになった部分も少なくないですよ。

-そういうご要望のお声は、どんどんお寄せいただきたいんです。たとえば、どんな機能が欲しいとお考えですか?

田中さん:私個人としては、やはりファイルメーカーのような「自由度」が欲しいですね。先ほどの話以外でも、たとえば名簿データなんかについても、I.B.MUSEUM以外で作ったデータのほうが新しくなっているケースもありますし。部署によっては、使用頻度に温度差が生じるものですからね。

服部さん:細かい点では、作家情報などを登録する時、候補を探すリストがポップアップしますよね。それ自体は良いのですが、リストの項目が少なくて探しにくい、とか、他にも、固定帳票で使いにくいところが出てきたり、貸出管理で返却処理まで完了しないと出品歴に反映されなかったり。本当に細かい部分ですが、もっと改善していただければ、さらに使いやすくなるのになあ、と。

-なるほど、なるほど。旧バージョンをお使いとは言え、確かにご不便をおかけしている点がありそうですね。

服部さん:そうそう、ライセンスの数も、もう少し多いといいですね。現時点では、収蔵庫のパソコンはI.B.MUSEUMが使えなくなっていました。これは不便かな。

速水さん:何より、こういうディスカッションの機会が、もっと欲しいですよね。気軽にいろんなことが聞ければ、「ああ、新しいバージョンなら解決しているのか」と納得することも少なくないでしょうし。

-仰る通りですね。システムの改善が必要なところもあるかもしれませんが、運用方法次第でクリアできる課題もある気がします。コミュニケーションが重要ですよね。

-いろいろとご要望が出てきましたので、覚悟してお尋ねします。I.B.MUSEUMと弊社の対応は、100点満点で言うとどのくらいでしょう?

服部さん:そうですね…70点くらいでしょうかね?

-(意外に高い…)ありがとうございます。マイナスの30点分、取り戻さなければなりませんね。反省しています。

服部さん:いえいえ、これからSEさんとのコミュニケーションが密になれば、解消していく部分も多いと思いますよ。

-恐縮です。では、これまでのご経験を踏まえて、これからシステムを導入される館の皆様にアドバイスをお願いします。

服部さん:いま思い出したのですが、当館への移転の時、とりあえずシステムにデータが入力されていたことは、とても助かりました。システムのありがたさ、ですね。

-データがない状態で何千点もの収蔵品を動かすのは、恐ろしいですよね…。

服部さん:そうなんです。あとは、システムを使って何がしたいかを明らかにしておくことでしょうね。「使えるシステム」に仕上げるには、ここをきちんと考えないと。

田中さん:そうそう、使ってみないとわからないこともありますから。システム以前の、基本的な管理方法や理論をしっかり押さえた伝統のある施設、それと新しいことを取り入れている施設の両方を見学してみるのもいいと思いますよ。

-なるほど。今日はシステムを使う方の目線で、いろいろと勉強させていただきました。今後とも宜しくお願いいたします。本日はありがとうございました。

<取材年月:2007年5月>

Museum Profile
兵庫県立美術館 前身の兵庫県立近代美術館(昭和45年開館)を継承し、阪神・淡路大震災からの「文化の復興」のシンボルとして、平成14年4月に開館。美術だけでなく音楽や映画なども楽しむことができます。公立美術館としては西日本最大級の延床面積となる約27,500㎡を誇る建物は、安藤忠雄氏の設計。コレクションは兵庫県立近代美術館が収集してきたおよそ7,000点の作品を引き継ぎ、常設展も充実。芸術を楽しんだ後は、外のデッキで潮風を感じることもできるなど、訪れるたびに違った表情を見せてくれる素敵な美術館です。

ホームページ : http://www.artm.pref.hyogo.jp/index.html
〒651-0073 兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1丁目1番1号
TEL:078-262-0901