ミュージアムインタビュー

vol.45取材年月:2007年11月ホンダコレクションホール

眠っている資料に再び生命と役割を与えること。
それがデータベースシステム構築の最大の使命だと思います。
本田技研工業株式会社 総務部 モビリティ業務ブロック
主任 神杉 進さん

-弊社がシステム構築のお話をいただいて、もう2年ほど経ちますね。まず、その前の管理方法についてお聞かせください。

神杉さん:当館は、一般の博物館・美術館に比べて、かなり特殊だと思いますよ。学芸員も分野ごとの担当がいませんし、会社が世に出したほとんどの資料を管理対象にしていますからね。

-具体的には、どんなものを管理されているんですか?

神杉さん:身近な例では、4輪製品や2輪製品、農機具などの汎用製品のポスターやカタログ、CM映像などの広告物ですね。加えてモータースポーツや社会貢献活動などの企業活動資料、最近ではロボットやジェット機などの資料も集め始めました。

-会社の資料室の役割も兼ねておられるんですね。

神杉さん:そうですね。間もなく創立60周年を迎えますが、古い資料となると、どの部門にもほとんど残っていないというのが実情で、コレクションホールを頼りにするしかなくなってきているんですね。頼りにされるのは、とても嬉しいことですよ。

-少人数ですから、資料管理も難しかったでしょうね。

神杉さん:そうですね。資料収集は以前から始めてはいたんですが、あまりにも収蔵点数が多かったので、1998年の開館に整理が間に合わなくて。簡易型のデータベースで管理していたものの、大半が人の記憶に頼っていたというのが実情でした。

-それで、そろそろシステム構築が必要だと。

神杉さん:はい。大量の資料管理を人の記憶に頼るのも、限界がありますからね。それに、資料を当館だけではなく「Honda」全体として活かすにはどうしたら良いかと考えた結果、やはりシステム導入が必要となったわけです。

-となると、そのお手伝いをさせていただく弊社の責任も重大ですね。

-さて、システムを導入するにあたって、どんな視点から検討されたのですか?

神杉さん:当館の事情をよくご存じのシステム会社さんと、ミュージアムの管理システムのノウハウをお持ちの会社さんを比較してみよう、というのが始まりでしたね。

-後者の代表として弊社を選んでいただいた、というわけですね。

神杉さん:ええ。知人の学芸員の方に相談したら御社をご紹介いただきましてね。オリジナルのソフトをお持ちだったことと、カスタマイズの許容範囲の広さ、そして多くの公共博物館や企業博物館とのお付き合いがあることが決め手となりました。

-ありがとうございます。仕様の打合せを開始した後はいかがでしたか?

神杉さん:我々も本格的なデータベースを作るのが初めてでしたし、資料整備もまだ道半ばという状態でしたので、とにかく一緒に考えていこう、と。御社には、我慢強く話を聞いていただきましたよ。

-お褒めいただいて恐縮です。システム開発は最初が肝心ですからね。

神杉さん:我々自身がシステムの像を描き切れていなかったことが、逆に双方のコミュニケーションを深めて、イメージの早期共有化が図れたのかもしれませんね。

-そこまでは理想的な展開だったんですね。さて、開発にあたって、特にどんな点に注意されましたか?

神杉さん:たとえば、ユーザ検索方法を「あえて完成形にしない」とか。

-ユーザ検索法を完成させない? それはどういうことでしょう?

神杉さん:たとえば、インターネットでキーワード検索すると、「関係ないもの」までヒットしてしまいますよね。あの状態を避けるために、まずはオーソドックスなディレクトリ検索を主体にしたデータベースにしているんです。検索の不便さはありますが、逆に、誰でも間違いなく探している資料に到達できますからね。広い意味では、むしろこちらの方が便利ではないかと思っているんですよ。

-なるほど。技術のトレンドだけを追うと、逆に不便な面も出てきますよね。

神杉さん:それから、システムの「管理側」と「ユーザ側」のコンテンツデザインを敢えて分けた点もポイントですね。管理側は使い勝手を高めるために機能優先のデザインで、ユーザ側はフレンドリーなイメージのデザインを意図しているんですよ。

-来館者向け端末にも通じるお話ですよね。さて、ここで恒例の質問をさせていただきます。I.B.MUSEUMおよび弊社は、100点満点で言うと何点でしょうか。

神杉さん:私としては大変満足しているので100点と申し上げたいのですが、担当者から多少細かい注文も出ているようなので、95点といったところでしょうか。

-高得点をありがとうございます。でも、注文が出ている状態であれば、もっと減点幅が大きいほうが良いのでは?

神杉さん:本当に細かい点ばかりですから。それに、御社の対応アクションの素早さと考えると、大幅な減点対象にはならないと思っています。こうした注文は、両者が「もっと良いシステムにしたい」という想いを深める契機にもなりますからね。

-なるほど。「注文は、発展のための要素」というわけですね。勉強になります。

-先ほどのコンテンツデザインのお話ですが、ホンダと言えば優れたデザインや企業文化がブランドイメージになっていますよね。

神杉さん: はい、お陰様で。I.B.MUSEUMのコンテンツデザインは、機能が重視されている分、質素過ぎるという印象を持ちました。今回のシステムでは、「Honda」の個性が感じられるものにしたいと思って、デザインをお願いしたんです。「アシモ」が出てきてお辞儀をするくらいの「遊び」感覚があってもいいと思うんですよね。

-確かにそうですね。無機質な画面では伝わらないものがあると思います。

神杉さん:扱っているのは単なる資料かもしれませんが、その中には作った人の努力や苦悩、想いがあります。そうした背景も情報の一部として捕らえたり、「語り継いでいく」と役割を含めると、インターフェイスはやはり重要なんですね。

-企業姿勢にも通じるものがありますよね。弊社もぜひ学びたいと思います。

神杉さん:当館は、Hondaの企業文化を社内外に伝えていくことを目的に生まれた施設ではありますが、もう一方ではモビリティ文化の伝承・継承の一翼も担っていると自負しています。その意味で、元となる資料は今後ますます重要になりますし、その資料を管理するシステムの果たす役割は大きいと思っています

-仰っていることは、よく分かります。

神杉さん:収蔵庫に眠っている過去の資料が、再び表舞台で活かされる機会を増やすことが、管理・検索システムの目的でもありますので、これからも内容を充実させるとともに、完成度を高めていきたいですね。

-弊社にもお手伝いさせてください。ご多忙の中、本当にありがとうございました。

<取材年月:2007年11月>

Museum Profile
ホンダコレクションホール 故・本田宗一郎氏による「夢」という文字が刻まれたガラスのオブジェが美しいエントランス、そして1960年代のレーシングカーたち。これだけで、モノづくり企業の情熱が詰まったミュージアムだということが伝わってきます。中に入ると、自動車やバイク、農機具などの汎用製品、それにレーシングマシンの数々が並び、クルマ好きには最高の空間。ツインリンクもてぎというレース場にある博物館ですが、ホテルやオートキャンプ場が併設され、イベントも盛りだくさんのアミューズメントスポットとして広く親しまれています。

ホームページ : http://www.honda.co.jp/collection-hall/
〒321-3597 栃木県芳賀郡茂木町桧山120-1ツインリンクもてぎ内
TEL:0285-64-0001