ミュージアムインタビュー

vol.80取材年月:2012年6月公益財団法人 日本習字教育財団 観峰館

最も大変な画像撮影は、ルール化してしまえばいい。
小さな工夫が、データの充実につながるのです。
学芸員 寺前 公基 さん

-早いもので、ご導入いただいて5年近くたちますね。まずは、ご検討を始められた当時のことをお話しいただけますか?

寺前さん:当時の担当の話では、システム導入前はExcelで管理していたそうです。問題は、画像データだったようですね。

-管理が大変だったでしょう?

寺前さん:いえ、それ以前に、数の問題でして。開館時の図録に収録した分はありましたが、収蔵品全体で見れば1%ほどに過ぎないので、「文字情報だけでは仕事がしにくい」と声が強まったようです。そこで、京都国立博物館の事例を参考に、他社製品との比較を経て決定したとのことです。

-先ほど展示を見せていただきましたが、収蔵品の性質から考えると、画像情報はとても大切だということがよくわかります。でも、そもそも画像の点数が少なかったということは、撮影が大変なのでは?

寺前さん:そこは一計を案じました。資料の写真を撮影するときには、実物を出さなければなりませんよね。そこで、展覧会開催の際に収蔵庫から作品を出したタイミングで、必ず写真を撮影するようにしたんです。

-なるほど!

寺前さん:その上で、撮影した画像を加工して、データベースに登録することを義務付けているんですよ。少しずつですが、データは確実に増えています。

-画像登録作業を展示業務に組み込んだということですね。確かに、展覧会の準備には図録やポスターづくりが必須ですから、一石二鳥ですねえ。

寺前さん:そうなんです。たとえば、展示にあたって調べたことも付随情報としてシステムに登録しておけば、鳥をもう一羽増やせますよ(笑)。とは言え、このルールを始めてからまだ1年ほどですから、先は長いんですけどね。

-それでも、とても意義のある一歩だと思いますよ。「入力はどうしても後回しになる」とお嘆きの館は本当に多いですから、皆さんにもお知らせしますね。

-さて、そんなI.B.MUSEUMですが、ご期待通りに役立っていますか? ご不満な点などがあれば、ぜひお聞かせください。

寺前さん:その前に、最終的な目標をお話しておいた方がよいと思うのですが、よろしいですか?

-もちろんです。ぜひお教えください。

寺前さん:私としては、「データベース上で展覧会を考える」ことができるようになるまで、データを充実させていきたいと思っているんです。

-データベースで展覧会、ですか?どういうことでしょう?

寺前さん:たとえば、展示のテーマをひとつのキーワードとして、データベースを検索するとしますよね。そうすると、キーワードに関連する作品がずらっと表示されるでしょう? この画像リストを見ながら選ぶ、という流れです。

-ふむふむ(メモ中)

寺前さん:この時、画像データが揃っていないと、いちいち収蔵庫に行って現物で確認する必要が生じます。すべての作品に画像データが整備されていたら、システムだけで完結しますよね?

-しますねえ…(メモ中)

寺前さん:さらに、「そのキーワードで過去に展示したものを除外して検索する」ことができれば、キーワードの数だけ展覧会企画ができて、かつ、まんべんなく展示することもできるわけです。

-なるほど…。実に良い活用アイデアだと思います。

寺前さん:ということで、I.B.MUSEUMの使用感なのですが。まずは、新旧の漢字に対応できるといいなと思います。当館の作品データは、どうしても旧字体が避けて通れないものですから。

-確かに。実現には新旧字体の辞書機能が必要で、どうしても予算の問題が出てくるのですが、うまい方法を考えてみます。

寺前さん:ぜひ。それから、作品データを登録していて、作家に関する情報を追加したいという時に、作品データ画面をいったん閉じて作家データ画面に入り直さなければなりませんよね。そこはちょっと不便かな。

-作家データの編集は閲覧用ポップアップ画面で登録できるようにすると、解決できるかもしれません。これも課題とさせていただきます。

寺前さん:あとは、当初考えた入力項目が多すぎて、どうしてもブランクの欄が多くなるのが気になります。

-ああ、それは分かります。入力されていない項目が多いと、気分が削がれますよね。

寺前さん:この問題って、早稲田さんが始められたSaaS版では解消できるんですよね? 項目を削るのもユーザ側でできるとか。

-SaaS版は、扱う資料の種類が大幅に異なる館にも「同じシステム」を提供することが前提ですから、ユーザ側でのさまざまな変更に対応させたんです。もしご興味がおありなら、いずれ、改めてご案内しますね。

-お話を伺っていると、寺前さんは、博物館システムがあるべき立ち位置について、とても的確に理解されているように感じます。何か、重要性を実感されたようなエピソードがおありなのでしょうか。

寺前さん:昔、他の館に問い合わせをした時に、「その話、前も同じ質問をもらいましたよ」と指摘されたことがあるんです。実は、前任者も同じことを訊いていたんですね(笑)。情報を蓄積して、共有する環境が整っていれば、こんな無駄もなくなるわけです。

-それは大切なことですね。

寺前さん:私は30歳を目前に当館に着任しましたので、定年まで勤めても30年前後です。でも、資料は100年、200年と維持されていくわけですから、私の代で情報が途絶えては意味がないんです。情報を足しながら、リレーしていかないと。

-仰る通りだと思います。そうした観点で考えて、システムに必要なものとは何でしょうか?

寺前さん:初歩的なことですが、データを膨大に入れても大丈夫ということ。私は、前の職場でFileMakerとExcelを使っていましたが、画像を登録すると重くなったり、動かなくなったりすると…。

-いま、まさにデータ蓄積の真っ最中でいらっしゃるだけに、説得力がありますね。

寺前さん:逆に、システムがきちんとしていると、業務が楽になります。当館の資料は2万5千点ほどあるのですが、ほぼすべての所在情報がシステムに登録されています。収蔵庫で探す作業を大幅に短縮できましたよ。

-素晴らしい。あとはインターネットでの公開ですね。

寺前さん:そこに辿り着くには、画像データ整備を継続して、情報を充実させなければなりませんので、もう少し先ですね。

-点数を考えると、気が遠くなりますよね。

寺前さん:ええ。でも、いつも早稲田さんから送られてくるインタビューなどのレポートに励まされていますから、頑張りますよ。「ああ、この苦労はウチだけじゃないんだ」とかね(笑)。

-このインタビューが…お役に立ってるんですね…(涙目)。弊社ももっと貢献できるよう頑張ります。本日は本当にありがとうございました。

<取材年月:2012年6月>

Museum Profile
公益財団法人 日本習字教育財団 観峰館 公益財団法人日本習字教育財団が運営する、「書道文化と世界を学ぶ」がメインテーマの博物館。
本館・展示室1・展示室2のユニークな外観を持つ3つの展示棟があり、それぞれテーマに沿った展示を行っています。日本習字創設者・原田観峰が三十年の歳月をかけて収集した書道資料をはじめ、近代中国の書画や、和本、日本の教科書などを膨大に所蔵。タワーのような建物はまさに地元のランドマークで、全国からも地元からも愛される博物館です。
ホームページ : http://www.kampokan.com/
〒529-1421 滋賀県東近江市五個荘竜田町136
TEL:0748-48-4141