ミュージアムインタビュー

vol.89取材年月:2013年5月世田谷文学館

大切なのは「システム脳」を意識することだと思います。
きっとほかの仕事でも役に立ちますよ。
主任学芸員 中垣 理子 さん

-ありがとうございます。ところで、今回のご導入のきっかけは?

中垣さん:当館は、みんながシステムを理解できるように、担当がローテーションで交代するのですが、その過程で、機能をどんどん付け足していまして。

-フレキシブルに対応できる半面、システム側の負担も大きくなりそうですね。

中垣さん:そうなんです。導入当時は5千件くらいだったデータ件数も、10万件ほどになりましたしね。かなり蓄積できたので「もっと有効に活用できる環境を作ろう」という話になりまして。

-いい流れですね。館としては理想的な展開だと思います。

中垣さん:そんな時、ちょうど世田谷美術館が御社のシステムを導入したんです。美術館の担当者は、当館にも在籍経験があったので、いろいろアドバイスしてくれて…という経緯だったと思います。

-なるほど。弊社にとっても理想的な流れです(笑)。

-さて、リニューアル作業を振り返って、何が印象に残ることはおありですか?

中垣さん:いろいろ勉強になりましたよ。私たちは、情報処理システムの素人で、「システム脳」を持ち合わせていませんから。

-「システム脳」、ですか?

中垣さん:ええ。担当SEの方とのやり取りを通じて、学ばせてもらったんですけどね。

-どんな考え方でしょうか?

中垣さん:私たちは、実務に合わせていろいろなリクエストを出しますが、全部実現させることが必ずしもよいこととは限らない、という。

-ほう?それは興味深いですね。

中垣さん:すべて実現しようとすると、その中で矛盾するケースとか、ありますよね? そういう「考え方の整理法」みたいなことが身についたかな、という気がするんです。

-確かに、機能同士がケンカしてしまうことは、よくあります。でも、私たちとしては、ご希望はできるだけ実現したいと思っているんですけどね(笑)。

中垣さん:仕様などの打ち合わせでは、いつも当館側から3人は出ていたと記憶していますが、それぞれ自分の意見を持っていますから、違うことを言い出したりするんです(笑)。

-はい、よくあることです(笑)。

中垣さん:しかも、文学資料は原稿のような紙資料だけではなく、作家の愛用品など、たくさんの資料があります。それらの特性も含めて議論していくと、収拾がつかなくなってしまったり。

-文学館系の施設では、そういう傾向が強いですよね。

中垣さん:以前のシステムでは、そうした館の性格がそのまま追加機能として反映されてしまった部分があったんです。そこで、今回は「できるだけシンプルにしよう」と思いまして。これって「システム脳」っぽくないですか?(笑)

-なるほど、確かに!(笑)

中垣さん:私は、幸運にも担当SEさんにそういうことを教えていただきましたからね。全体像を見て「ちょっと引いた目」を持ちながらシステム構築に臨むことができたかな、と。

-いや、ものすごく重要なお話だと思います。

中垣さん:でしょ?(笑) それに、御社の場合は、すでに交通整理されたパッケージがありますからね。最初に出発点があることで、各種ミーティングも効率的だったように思いますよ。

-とは言え、けっこう時間がかかったのでは?

中垣さん:ええ、1年近く続いたので、SEさんは大変だったでしょうね。

-今のお話ですと、ご要望をお聞きすればいいというわけではないですもんね。

中垣さん:そうなんです。私たちは、資料が好きでこの仕事に就いている側面が強いですから、みんなそれぞれに思い入れがあります。それを汲んでくださった上で、一緒に交通整理していただける方でないとね。本当に、よくお付き合いくださったと思いますよ。

-ありがとうございます。完成したシステムで、何か使いにくい点はないですか?

中垣さん:特に問題はないのですが、使いこなせていない面はあるように思います。

-たとえば?

中垣さん:名簿まわりの機能とか。作家や取得先などいろんな性質のリストをすべて一緒に管理したかったのですが、実務ではやっぱり用途別に使うのが便利で(笑)。

-でも、リストが分散すると、管理は大変ですよね?

中垣さん:そうなんですよね。実は、仕様の打ち合わせの場でも最後まで議論を重ねた部分なんですけど。

-では、もっとうまい運用方法を考えなければなりませんね。ちょっと宿題とさせてください。ほかには?

中垣さん:この場のお話みたいに、カウンセリングをお願いできたらなあ、と。「システムの使いこなし講座」みたいなイメージで…ちょっとわがままですかね?(笑)

-とんでもない(笑)。実は今、弊社でも現実的な方法を検討しているんです。

中垣さん:それは嬉しいな。私たちが延々と悩んでいたことが、御社にお聞きしたら一瞬で解決した…ということもありますからね。以前に実施いただいた操作説明会もそうでしたし。

-では、まず時々お話を伺うことから始めてみましょうか。具体的に検討してみますね。

-さて、今後のお話ですが。インターネットでの資料公開なども視野に入れていらっしゃいますよね?

中垣さん:はい、もちろん。当館は再来年、開館20周年を迎えますから、そのときには実現させたいな、と。でも、点数が多いですから、データ整備が追いつくかどうか。

-確かに大変そうですから、考え方を変えて、「整理できた情報から順に出す」という方法はいかがですか?

中垣さん:それ、いいですね!

-地域密着型の館であれば、そのほうが親しみやすいかもしれませんよ。

中垣さん:確かにそうですね。無味乾燥なリストで一気に出すより、特に重点を置いている資料からしっかり解説を加えて出す方が、ウチらしいかも。

-ぜひご相談くださいね。では最後に、これからシステムを導入される館に、アドバイスがあればお願いします。

中垣さん:繰り返しになりますが、業務側の視点だけで、あれこれと実現しようとすると、矛盾や過不足も生じます。俯瞰的に見ることが重要なんじゃないかな、と思います。

-「システム脳」を持とうよ、と(笑)。

中垣さん:そうそう(笑)。システム構築に立ち合う機会があれば、考え方の引き出しが増えることになると考えて、ぜひ参加することをおすすめします。その経験は、きっとシステム以外の仕事にもきっと役に立ちますよ。

-素晴らしいです。今日は本当に勉強になりました。ありがとうございました。

<取材年月:2013年5月>
Museum Profile
世田谷文学館 ユニークな文学展、美術や音楽などとのジャンルの垣根を超えた展覧会やイベントを行っている区立総合文学館。世田谷ゆかりの文学資料や映画資料を中心とした充実した収蔵品に加え、「ことのは はくぶつかん」など、子どもを対象としたイベントでも注目されています。明治の徳冨蘆花をはじめとして、数多くの文学者・芸術家が居を構えた文学の街・世田谷のシンボル的存在として、地元はもちろん、全国から訪れる人が絶えない個性派ミュージアムです。
ホームページ : http://www.setabun.or.jp/
〒157-0062 東京都世田谷区南烏山1-10-10
TEL:03-5374-9111