ミュージアムリサーチャー

ミュージアムレポート

デジタルアーカイブに取り組む館が急増する中、ネット上で収蔵品の3Dデータを見かける機会も増えてきました。その資料の裏側の様子など、ふだん展示室では見られない部分まで知ることができて、利用者としては嬉しい限り。ただ、3Dデータの作成は専門的なスキルが必要ということで、予算をかけて外部企業などに委託するケースが大半です。フォトグラメトリーを学んで自らデータを作り込む凄腕の学芸員もおられますが、ソフトウェアの使いこなしだけでなく後工程を想定した撮影方法など一連の流れに精通する必要があり、誰でも気軽に、簡単に…というわけにはいかないのが実情です。

「写真を撮るように、もっと簡単に作成できればよいのに」。多くの方が呟くそんな言葉は、実はすでに現実のものになりつつあります。そこで今回は、「誰もが使える3Dスキャナー」を期間限定でレンタル導入したと聞きつけて、北海道博物館を訪問。博物館資料学を担当する学芸員の鈴木あすみさんにお話をうかがいつつ、開発メーカーにも取材を敢行し、3Dデータ作成の自作の可能性を探ってみました。

学芸員がサラリと作った土偶の3Dデータ

まずは、次の二つの資料をもとに作成された3Dデータをご覧ください。「3Dモデリングデータを見る」から「ビューアで見る」をクリックすると、ゆっくり回転する3Dモデルが表示されます。

土偶-遮光器土偶-(42098-11) https://jmapps.ne.jp/hmcollection1/det.html?data_id=226872

土偶-遮光器土偶-(42098-12) https://jmapps.ne.jp/hmcollection1/det.html?data_id=226873

この3Dデータは専門業者に委託したわけではなく、鈴木さんご自身が作成したとのこと。しかも、資料の撮影からデータの作成、収蔵品管理システムに登録するまでの一連の作業が、30分ほどで完了したそうです。特に3Dを専門的に学んだわけではないのに、わずかな時間でここまでのクオリティのデータを作ってしまうとは、どんな機材を使えばそんなことが可能なのでしょうか。

北海道博物館に導入されたのは、ニコンの「COOLSCAN 3D」という3Dスキャナー。資料を載せるターンテーブルと照明がセットになった「撮影ボックス」と、カメラとプロジェクターによる「カメラユニット」から構成された機器だそうです。

それでは、ここからは実際にデータを作成された鈴木さんからご提供いただいた現場の写真とともに、作業の手順を辿ってみましょう。

まずは資料をターンテーブルの上にセットします。ここに載せられないようなサイズの資料の場合でも、資料の状態や工夫次第で撮影は可能とのことです。

機器をPCにつなぎ、専用のアプリケーションを起動。撮影を開始すると、テーブルがゆっくりと回り始めます。適切な位置で自動的に撮影してくれるので、作業者はPCのディスプレイでさまざまな角度から撮られた画像を確認するだけです。

撮影した画像をもとに3Dデータを作成。アプリケーション上で完成データの内容を確認し、必要に応じて調整したら、あとはデータを保存するだけ。

3Dデータを保存したら、あとはそのままI.B.MUSEUM SaaSにアップロードするだけ。正常に登録されたことを確認したら、はい、これで完了です。お疲れ様でした…って、本当に簡単なんですね!

撮影からこの状態までマウスを数回クリックしただけなので、「誰でも3Dデータを作れる」という表現も大げさではありません。特に迷ったりする場面もなく、「楽しく作成できました」と鈴木さん。このデータは実際に公開されているので、今後は「利用者の皆様が3Dデータを検索しやすくする工夫を検討したいですね」とのことでした。

3Dスキャナー実物を体感

この簡単さであれば、3Dの知識ゼロの筆者でも作れそう。ぜひ体験してみたいと考えて、開発元のニコン様にお邪魔しました。

ご挨拶の後、簡単な説明を受けて、さっそく作業を開始。布に柄がある熊のぬいぐるみをスキャンしてみることにしました。前述の鈴木さんの作業に倣って、ターンテーブルに設置して撮影をスタート。自動的にテーブルが回転し、適切な角度で写真撮影が行われて、みるみるデータが出来上がっていきます。

専用アプリケーションの画面には、データが作成される様子がリアルタイムで映し出されています。静止画では伝わりづらいのですが、まるで粉が集まって立体物が少しずつ出来上がっていく様子は、とても未来的。眺めているだけでワクワクさせられます。

撮影が終わったら、アプリケーション上でデータを調整。実物と並べて見ると、こんな感じです。まったく問題なさそう!

自分で試してみると想像以上に簡単で、楽しんでいるうちに作業は終了。その後、今回の取材にご対応くださったご担当の方にお話をうかがいました。

3Dデータは多様な角度から撮影した写真を組み合わせて立体的に見せるわけですが、このスキャナーにはさまざまな技術が使われているそうです。たとえば、立体物の起伏を正確に表現しつつ、表面の質感や風合い、模様まで精緻に再現するのは、かなり高度な技術が必要とか。確かに、絵付けのある焼物などは立体感も大切ですが、繊細で微妙な表情を持つ絵の精度も妥協できませんね。そこで、この3Dスキャナーでは、対象物に投影した格子やストライプなどのパターン光の歪みを解析することで形状を取得する「構造化光」方式を採用。高い精度の測定を実現した上で、ニコン製のカメラが得意とする高品位なテクスチャを活かすわけです。

これを手動で行おうとすると、本来はかなりの作業時間が必要となりますが、撮影ボックスとカメラユニットの組み合わせで自動化を実現。後処理のパラメータ調整には専用ソフトウェアを用意することで、フォトグラメトリーなど専門的な知識やスキルがなくても3Dデータを作成できる環境を実現したわけですが、理論上は1点につき最短13分で作成可能とのことです。

実は、高度な品質を求めない場合は、フォトグラメトリーを使った自作もそこまで難しい作業ではないようなのですが、その場合でもITスキルや経験値が必要とのこと。その点、この3Dスキャナーなら、位置合わせをはじめフォトグラメトリーで必要とされるコツの部分まで「代行」することが可能。3Dデータ作成を手軽に内製化することができるわけです。

作業工程については、本当に説明すべきことがないほどの簡単さ。これだけの機器ですので館単独での導入は厳しくても、たとえば「エリアに1台」「都道府県に1台」でも配置されれば、対象資料を設置場所に持ち込むか、あるいは逆に3Dスキャナーがエリア内の各館を巡回するような仕組みを作ることも可能なのでは。地域の館で共有できれば、デジタルアーカイブのコンテンツ力は大きく上がるはず…夢が広がりますね。

ちなみに今回、鈴木さんが作成された一連のデータは、実際に公開される予定とか。データベースに登録されれば、下記URLの検索画面で「3Dモデル」の「あり」にチェックを付けるだけで検索できます。ご興味がおありの館は、ぜひチェックを。


北海道博物館 収蔵資料検索 https://jmapps.ne.jp/hmcollection1/

ニコン3Dスキャナー COOLSCAN 3D https://www.jp.nikon.com/business/products-and-services/3d-creation/product-basic-info.coolscan-3d/