ミュージアムIT ケーススタディ

ミュージアムレポート


提供機関 | 愛媛県美術館
URL  | https://www.ehime-art.jp/sugiurahisui/
構築方式 | オリジナルサイト・Web API


「推し活」という言葉が浸透した昨今、美術館によく足を運ぶ方の多くは「推しの作家」がいるのではないでしょうか。気に入った作品を見つけると、その作家のほかの作品や人物像へと関心が広がるもの。でも、作家情報に特化したデジタルアーカイブは意外なほど少なく、探すのが難しかったりします。そんな中、愛媛県美術館では、日本におけるモダンデザインの先駆者として高く評価されている杉浦非水のデジタルアーカイブを公開中。作品が生まれた背景に思いを馳せ、「もっと見てみたい」という気持ちを高めてくれる魅力的な特集サイトに仕上がっていますので、少し深掘りしてみましょう。

作品の魅力に引き込むたくさんの道筋

杉浦非水デジタルアーカイブの鑑賞体験は、作品画像がゆっくり流れるトップページから始まります。こうしたデザインはデジタルアーカイブのトップページでよく見かけますが、このページは上下に大きく1〜2作品が見やすく配置されていてスピードもゆっくりなので、展示室を歩くような感覚で眺めることができます。気になる作品があれば、その場でクリックして作品情報の画面②へ。さらに「収蔵品詳細へ」ボタンをクリックすると、作品データベースの画面③が開きます。

作品情報の画面では画像と作品名、制作年、技法・材質、寸法と基本的な情報が表示されていますが、これはWeb APIを活用してオリジナルで制作したデジタルアーカイブサイト内のページ。一方、より詳しい情報を掲載しているリンク先のページは、I.B.MUSEUM SaaSの情報公開機能で構築したものです。I.B.MUSEUM SaaSでは公開するデータ項目を自由に追加・変更できますので、将来さらに詳しく情報を拡張する必要性が生じた際にも、コストをかけることなく柔軟に対応可能。つまり、より専門性の高い詳細情報の提供をリンク先に任せることで、デジタルアーカイブ上の作品情報ページはデザインの統一感にこだわることもできるわけです。


さて、Web APIを使ったオリジナルサイト側の作品情報ページには、下におすすめの関連作品が表示されています。直感のままに気になる作品をクリックするとその画面へ、さらにまた次の関連作品へ…という具合に無限に続いていくのですが、実はこれ、ページを開くたびにランダムに入れ替わります。同じ作品ページでも、リロードすれば異なる作品が現れるわけですね。

似た形で、トップページの真ん中あたりにも6つの作品の画像が並んでいます。ところが、リロードしてもそのままで同じ画像が表示されます。なぜなら、こちらは「よく見られている作品」という主旨でチョイスされているから。つまり、デジタルアーカイブでよく閲覧されている人気作品が並んでいますので、ごく自然な動線でサイトの自慢の作品へと誘導できるのです。もちろん、ここで選んだ作品のページでは、上記のランダム表示による関連作品が。このように、とにかく利用者を飽きさせないよう、さりげない工夫が満載されています。

作品検索はシンプルで使いやすく

前述の通り、トップページのファーストビューではたくさんの作品画像が流れていますが、「特定の作品を探している」「あるカテゴリの作品に絞って閲覧したい」という方にとっては、キーワードを入力する検索ボックスを探すのが少し手間に感じるかも知れません。そこで、画面右に大きなアイコンを固定し、即座に詳細な分類と年代の指定も可能な検索トップへとジャンプできるようにひと工夫。これなら画面のどこにスクロールしてもボックスを探すことなく、すぐに検索を開始できるわけですね。

そのほか、主なジャンルのコーナーには6個の分類ボタンが。いずれかひとつをクリックすると、その分類に該当する作品がすぐに表示されます。ポスター、パッケージ・広告、図案集、装丁、雑誌表紙、スケッチ・素描と分類名も分かりやすいので、何も考えずに美しい作品群にアクセスすることができます。このように、ライトユーザーとヘビーユーザー、どちらの方にとっても使いやすい丁寧な画面設計が秀逸です。

 

遷移先の作品検索では、検索結果は別画面ではなく同じ画面の下に表示されます。検索パネルと結果一覧が同じページに収まっていることで、最初に選んだ分類に別の分類を加えた新たな条件で検索を再実行する時も画面を往復するストレスがなくなり、求める情報に辿り着きやすくなります。

さらに面白い機能として、検索実行ボタンの右下、「並べ替え」と並んだ「展示情報」という小さなボタンにご注目を。ここからは、現在展示中の作品と他館へ貸出中の作品に絞り込むことができます。「いまならどの作品を見ることができるの?」というよくある疑問を瞬時に解決できますので、お出かけの際には必見の機能になりそうです。

生涯の年表から各時期の代表作へと誘導

さて、トップページを下にスクロールすると、「非水の生涯」というコーナーがあります。ここでは、作家の略歴のほか、「東京美術学校卒業まで」「図案家としての活躍」など彼の生涯を時系列に区切ったボタンが。「詳しく見る」をクリックすると年表が表示されるのですが、年代の区切りのボタンからは特定の時期に直接ジャンプすることができます。

 

こうした年表を使った表現は、特定の作家に関する展覧会の会場ではお馴染みですね。生誕から没年まで生涯の主な出来事を並べるわけですが、展示室内のパネルとは異なり、その時期の代表作などへのリンクを設置するなどデジタルならではの強みを活かすことができます。ここでも、年表の右に置かれた「作品詳細へ」のボタン詳細ページに飛ぶことができます。

何か特定の作品に関心を持ってくれた方から、作家のディープなファンの方まで。杉浦非水デジタルアーカイブは、さまざまな利用者のニーズに応えながら作品情報へと誘うよう、とても緻密に設計されていることが分かります。作家やテーマに特化したデジタルアーカイブの構築をご検討なら、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。