代表ブログ

わせだマンのよりみち日記

2021.10.10

想い、伝えることから始まる、人と地域の物語。

#私的考察

緊急事態宣言が明けて間もないある日の帰り道のこと。活気が戻る新宿駅の様子にふと思い立ち、運動不足解消がてら少し歩いてみることにしました。新宿から3駅ほど、少しずつ喧騒から抜け出すように。東京は意外に緑が豊かですので、樹木の気配と夜露に湿る空気で、ちょっとしたリフレッシュ気分に浸ることができるんですよね。

こんな時、決まって脳裏に浮かぶのが、以前に見た「木の名刺」です。持ち主は、その昔、仕事で少しご一緒したニュージーランド人の女性。名刺ですので紙のように薄いのですが、年輪がはっきり見える正真正銘の木材です。初対面の際に差し出され、あまりによくできていたので訊ねてみると、ALT(Assistant Language Teacher=外国語指導助手)として2年間を過ごした山村を離れる時に贈られたものなのだとか。最終日は村人のほぼ全員が見送りに集まり、無人駅のホームで涙なみだのお別れだったそうです。

目を輝かせるように語る彼女の物語を聞き終わり、自分の名刺入れに収めようとすると、その場で取り上げられてしまいました。名刺を交換してくれないんですか? 「ダメダメ」「ミルダケ」。思わずふたりして吹き出してしまいましたが、彼女にとってそれは配り歩くものではなく、人生の想い出となる一日の記念品。地元の人々との素晴らしい交流の証であるあの名刺は、きっと今でも彼女の大切な宝物であり続けているに違いありません。

ALTと言えば、弊社が提供中の展示ガイドアプリ「ポケット学芸員」でも、各館の地元に住む外国人に翻訳やナレーションを依頼するケースがままあるようです。ある館が依頼したALTの方は、翻訳の下調べに何度も足を運び、学芸員を質問攻めにするくらいの熱心さだったとか。あるくだりは正確で、またあるくだりは力のこもった意訳がなされた解説文は、「資料の歴史的背景を詳しく理解したい」「少しでも正確に伝えたい」という翻訳者の意気込みが感じられました。

地域にとって最高の親善大使であり、国際交流や相互理解の理想的な姿を示してくださったALTたち。おふたりに共通するのは、その地域への愛着、愛情です。それは、地域の誇りを見てもらおう、楽しんでもらおうと工夫を凝らして展示に取り組む博物館学芸員の皆さんにも通じるところ。想いを上手く伝え合えれば、自然に人が集まり、物語が動いていくのですね。

新型コロナウイルスの猛威が少しずつ落ち着きを見せ、街にも人の姿が戻ってきた昨今。弊社スタッフもまた、以前のように全国のミュージアムへと足を運び始めました。そんなわけで、このブログでも張り切って訪問記を再開していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。