代表ブログ

わせだマンのよりみち日記

2021.10.27

辿り着いたのは…出発地点? 「博物館クラウド」10年の旅

#私的考察

大小さまざまな博物館が所属する都道府県単位での博物館協議会。大半は事務局が都道府県立館に設置されており、学芸員の有志による研修会も活発です。何度か講師を仰せつかったことがあるのですが、最近はデジタルアーカイブに関する具体的なご相談が目に見えて増えています。興味深いのは、ご質問のポイントがほとんど同じであること。それは、都道府県単位での博物館資料データベース構築、特に中小規模のミュージアムについてのご相談です。

「県内には、単独でシステムを構築する体力がない館も多い」「ならば、県としてデジタルアーカイブを作れば、そうした館も無理なく参加できるのではないか」「各館の負担を最小限に抑えつつ、資料情報を発信できる仕組みがあれば、規模に関わらずデジタル活用が可能になるはず」「この考え方について、どう思うか」

大同小異はありますが、概ね、上記の通り。もちろん、素晴らしい取り組みです。しかし…。

各館が収蔵品データを持ち寄る形で一元管理し、それを一般公開できるプラットフォーム。実は、こうした仕組みについてはジャパンサーチ以前からあちこちで議論が重ねられてきました。確かに、この方法なら参加各館にはシステム構築の費用負担がかからないのですが、問題となるのは運用面。小さな館にとっての「人手不足」は何よりも決定的で、器はあってもそこにデジタルデータを切り盛りし続ける作業そのものが困難なのです。この問題は、弊社がクラウドサービスを始める以前から本質的に変わっていません。

昔も今も、デジタルアーカイブへの意欲はあっても人員不足で着手できない、着手できても継続できない…という館は想像以上に多いのが現実。しかし、そうした館でも、図録の原稿や出品リスト、資料写真などはデジタルデータとしてお持ちであることが少なくありません。ならば、まず最小限のコストで利用を開始できるシステムであることを前提に、可能な限り日々の業務フローと一体化できるデータ登録動線を作れないか。ひとたび入力を済ませてしまえば、あとは必要に応じて学芸業務・館内事務・来館者用コンテンツ・インターネット公開・アプリ配信などに「振り分ける」ことが可能なら、人員不足に喘ぐ館でも何とかデジタルデータを整備し、活用できるのでは…。

弊社の「博物館クラウド」I.B.MUSEUM SaaSの基盤となったMAPPS(Museum Archive Platform Projects)プロジェクトも、そんな構想からスタートしました。その中核をなすクラウドサービスは先ごろ10周年を迎え、おかげさまで博物館界ではほぼ唯一無二と言える数の館をユーザとしてお迎えするサービスへと成長しました。しかし、残念ながら、それでも現実は当初の想定以上に厳しいものがあると言わざるを得ません。率直に申し上げて、予算的にもマンパワー的にも「今は簡単には行かない」という館も少なくないのです。

冒頭でふれた都道府県博物館協議会のご相談の背景には、そんな現状があります。都道府県がリーダーシップを発揮して「すべての館の手が届くデジタルアーカイブの仕組みづくり」をご検討くださるなら、長らくミュージアムITの平準化を追い求めてきた弊社としても心強い限り。しかし、館が「デジタルデータを提出する」スタイルである以上はデータ作成作業が必要となり、人員不足の問題が再燃するのは、ほぼ確実。これは、とりもなおさず10年前の課題と同質で、あの時に仰ぎ見た同じ山の麓に立っているようにも感じるのが正直なところです。まさに堂々巡り、これはもはや「代わりに誰かが入力する」しか方法がないのでは。いや、それができないから苦労しているわけで…。

多かれ少なかれ、大多数のミュージアムは人員不足。そんな中で、他館はいったいどうやってデータベースを整備したのか、デジタル活用に成功したのか。弊社では、中小規模館にお邪魔するたびにいただくこのご質問を抱えて、全国各地への訪問取材を続けています。

弊社サイトでも不定期連載中の『ミュージアムインタビュー』は、博物館クラウドの前身時代から今年で足かけ16年、WEBではのべ170館以上の記事を公開しておりますが、会話の中で大きなヒントをいただけた場面が多々あります。たとえば、とある館でうかがった「民間企業を定年退職された方がデータ整備に貢献を果たしてくださった」というエピソードなら、似たお立場の方が身近におられる館では糸口となり得るはず。こうした成功体験を、館から館へとネットワークのように継いでいくことはできないものか…。

中小館を置き去りにしない博物館資料のデータベース化の推進。その道筋そのものについては、弊社なりにひとつの方向性を見出しています。まず予算の共有、次に仕組みの共有、そして解決策の共有。2番目までは博物館クラウドの機能拡充などを通じていくつかの成果を得ることができましたが、問題は3番目。手を替え品を替えながら「糸口」情報の提供も続けてはいるものの、多くの館で人員不足が慢性化し、しかもそれぞれ個別に多様すぎる事情をお持ちの中では、なかなか「解決策の標準化」までには至らず。

というわけで、辿り着くのはいつも出発地点。博物館クラウド10周年、まだまだ長い旅が続きそうです。