ミュージアムインタビュー

vol.125取材年月:2017年6月藤枝市郷土博物館・文学館

データの充実化にはなかなか難しい問題もありますが、
焦らず、地道に進めていきます。
郷土博物館担当係長(学芸員) 海野 一徳 さん

-先にご導入いただいたお隣の文学館様はI.B.MUSEUM のパッケージ版、こちらではI.B.MUSEUM SaaS をご利用いただいています。少し特殊なケースですので、背景をお聞かせいただけますでしょうか。

海野さん:当館では25年間にわたって手書きでの収蔵資料管理を続けてきましたが、平成26年3月にシステムを導入しました。文学館の導入は平成19年度末ですので、私たち郷土博物館側が参考にしたということですね。

-検討は以前からなさっていたんですよね。

海野さん:そうですね。郷土玩具コレクションを5,000点以上一括で受け入れたこともあり、やはり、今までの紙に頼った管理手法では難しいかな、と。

-弊社のスタッフも何度かお邪魔していたようですね。

海野さん:はい、いろいろとご提案いただきました。でも、文学館のように新規開館というタイミングでなければ、予算付けがなかなか難しくて。残念ながら、実現しなかったんです。

-数百万円はかかりますからね。

海野さん:そんな時にクラウドのお話を聞いて、「その金額なら」ということになったんです。5年くらいの長期スパンで比較しても、クラウドの方がコストを抑えられますから。

-それで、パッケージ版とクラウド版に分かれたわけですね。手書きからシステムへの移行は大変でしたでしょうね。

海野さん:はい、でも、手書きオンリーというわけではなく、データで一覧表を作成していたのが役立ちました。一覧表で語句検索して、ヒットした資料を手書きのカードにあたるという流れでした。

-検索できるデータはあったのですか。

海野さん:はい、一覧表はAccessで作っていました。Accessで検索してカードを見つけてコピーして、それを業務で使っていました。

-では、現在のI.B.MUSEUM SaaS に入っているデータも、Accessがベースになっているということですね。それならスムーズに運用していただけるのではないかと思います。データも順次増やしていけそうですね。

海野さん:それが、そう簡単でもなくて。当館は、そんなに「順調」とは言えないと思います。

-え、そうなんですか?気になりますね。

-どういった点が問題なのでしょうか。

海野さん:データベースは、器が立派でも中身がきちんとしていなければダメですよね。当館の場合は、Accessに入っていたデータと画像は登録できているのですが、「肉付け」がなかなか進まなくて。

-なるほど。もう少し具体的にお聞かせいただけますか?(メモ)

海野さん:現在は、資料の名称や年代、収納場所や受入年月日、寄贈者などの文字情報が入っています。あとは画像データですね。紙のカードをそのまま画像化したものもあります。

-では、履歴や解説データなどは未着手、と。

海野さん:ええ、それに寸法とか、資料状態・展示履歴の情報とか、さまざまな情報を入れ込まなければなりません。郷土玩具については、外部の収集家に情報をご提供いただく必要もあり、情報を充実させていく作業は思うように進まないというのが現状です。

-郷土玩具はインターネットで公開できると、地域の皆様にもお喜びただけそうですね。ただ、データ整備は締め切りがありませんので、後で充実化させる方針の館が多いですよ。

海野さん:そうでしょうね、当館も同じです。データベースに追加すべき情報がカードには手書きされているので、それを入力するという作業ですね。

-問題は入力のマンパワーですね。臨時職員の方などにお願いする、とか。

海野さん:仰る通りなんですけどね。学芸員の有資格者は展示・イベント業務に、司書の有資格者は図書の受け入れ整理業務といった館の運営業務が優先されてしまいまして…なかなか空き時間でデータ整備をルーティン化することが困難でして。

-無理もない話だと思います。

海野さん:私が推進力になっていかないといけないのですが、展覧会が年6回ありますので、なかなか手が回らないのが実情です。ちょうど今も、会期が始まって落ち着いたばかりなんです。

-それがご本業ですし、そちらは遅れるわけにはいきませんからね。

海野さん:微力ながら、こういう手順書みたいなものは作ってみたんです。ちょっと見ていただいてもいいですか?

-(拝見しながら)これはすごいですね。紙のカードの入力するルールを、ここまで細かく指定するんですね(驚き)。しかも、ひとつひとつ解説するように…(感嘆)。これなら入力者が迷うこともなさそうですが、それでもこの通り入力するとなると時間が必要ですね。

海野さん:そうなんですよ。この手順書に基づいて曜日を決めてなんとか作業を続けていたんですけどね。それに、もうひとつ大きな問題がありまして。

-ほかにも障壁が…?

海野さん: 実は、I.B.MUSEUM SaaS にアクセスできる端末が1、2台と限られているんですよ。市のセキュリティの方針で、インターネットへのアクセスを制限されていまして。

-それは大変ですね。I.B.MUSEUM SaaS は、日常業務でお使いいただければデータが自然に蓄積できる仕様ですので、データを登録するスタッフの方々がお使いになる時は学芸員の皆様が使えなくなる…。

海野さん:元となったAccessのデータベースは、資料カードにあたるためのインデックスのような役割だったんです。それが、検索できる端末が1、2台ということになると、館内ネットワークにあるAccessを見に行ってしまいますよね。自分のパソコンでアクセスできますから。

-ああ、なるほど…。

海野さん:というわけで、データ整備は順調とは言い切れませんが、地道にやっていきます。

-弊社も、何とか解決策を探したいです。

-明確な目標を持ってシステム化を実現されただけに、運用段階でこれだけ重たい課題に直面されるというのは、大変ですよね。I.B.MUSEUM SaaS の機能改善で何かお役に立てそうなことがあるといいのですが。

海野さん:そうですね。一番お願いしたいのは、カードの出力機能です。

-詳しくお願いできますか?(メモ)

海野さん:たとえば、導入時に「これから新規で受け入れる資料については、カードを作らないようにしよう」と考えていたんです。ただ、現状で紙が完全になくなると業務上の不都合も出てきますから、様式は多少変わっても、カードの出力ができたら助かります。

-なるほど。今の出力形態だと、資料1点がA4で何ページにもなってしまいますから、カードとしては使いにくいですよね。

海野さん:カードとして使うには画像が小さすぎますしね。

-仰る通りですね。今後の機能改善事項として検討させていただきますね。

海野さん:ぜひお願いします。今直面している課題を乗り越えて、システムの整備業務が軌道に乗ってきたら、収蔵資料データを公開して情報発信力を高めていきたいと考えています。

-ぜひぜひ。こちらは博物館がある蓮華寺池公園の再整備が進んで、エリア全体としてとても賑やかになっているようですので、スマートフォンのアプリもお使いいただければ面白い展開も期待できると思います。

海野さん:そうですね。そのためにも頑張っていきたいと思います。

-弊社も、皆さんの環境の変化に対応できるよう、システムの機能改善を進めていきます。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

 

<取材年月:2017年6月>
Museum Profile
藤枝市郷土博物館・文学館 静岡県中部を代表する憩いの場「蓮華寺池公園」内にある博物館・文学館。公園内は、約260本の藤の花、日本庭園やジャンボすべり台が人気で、多くの人々で賑わいます。館内では、市内にある遺跡・古墳からの出土品、田中城や藤枝宿の歴史的資料などを展示中。また、隣接の文学館では、地元出身の作家、小川国夫、藤枝静男をはじめ、志太平野にゆかりの文学者や芸術家を広く顕彰。エリア全体で地域の歴史や文化、自然を幅広く学べる地域のランドマークです。
ホームページ : http://www.city.fujieda.shizuoka.jp/kyodomuse/
〒426-0014 静岡県藤枝市若王子500
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