ミュージアムインタビュー

vol.135取材年月:2018年5月広島県立歴史博物館

2〜3時間よりも、10〜20分の「空いた時間」を
データ整備に充てるように心がけています。
主任学芸員 尾崎 光伸 さん

-一昨年、I.B.MUSEUM SaaS を導入いただきましたが、先代のシステムから数えると、実は大変長くお付き合いいただいているんですよね。

尾崎さん:そのようですね。私自身は、旧システムはあまりよく知らないんですけどね。

-着任された頃にお使いだったのでは?

尾崎さん:いえ、すでに導入当時を知る職員がいなくなっていて、使いこなせない状態になりつつあったんです。老朽化も進んでいましたしね。

-そうだったのですか。以前お邪魔した際には、リニューアルの予算獲得に苦しんでおられたので、その時にもう少ししっかりフォローできていればよかったですね。

尾崎さん:いえいえ、そんなことはないと思いますよ。ただ、導入した後で着任した職員は何かと忙しくて、マニュアルをじっくり見る時間もなかなか取れませんからね。

-あちこちの館でよく耳にします。システムとの距離が生じると、データを追加していくのは難しいですよね。

尾崎さん:総務で使用する情報などは継続的に登録されていたようなんですけどね。私が担当している草戸千軒町遺跡は、どこかのタイミングで更新が途絶えていたようです。

-システムをよく知る職員の方の異動がたまたま続いただけでも、継続の危機に陥りますもんね…。

尾崎さん:検索で使用していても、データが追加されていなければ、いずれは「検索してもヒットしない」ということになりますからね。

-弊社から見ると、「システムは老朽化しているはず。その後、どう対処なさっているんだろう」ということになるんですよね。そのためにもフォローの徹底を心がけてはいるのですが…。

尾崎さん:お互い、なかなか難しい問題ですよね。

-でも、実際のところ、データはどうなさっていたのですか?

尾崎さん:システムに入っているデータを、一度Excelに出力したようです。私が着任した頃には、データの管理はすでにExcelが中心でした。

-そうなると、システムが老朽化してExcelでの運用に移行しておられたにもかかわらず、一昨年、I.B.MUSEUM SaaS を導入されたということになりますね。

尾崎さん:ええ、データが増えてしまって。場所や状態、保存処理などの情報も必要ですから、Excelの列がどんどん足されていって…。

-なるほど、管理が大変になりますね。

尾崎さん:それはもう、膨大な量に(笑)。

-データ件数そのものも多そうですし、分野も多岐にわたりますよね。ファイルもひとつにはまとめ切れないのでは。

尾崎さん:ええ、分野ごとにExcelファイルにありました。分野をまたいで探そうとすると、全部のファイルを開かなければならなくて。

-それは大変ですね。データの中身もバラつきが出てくるでしょうし。

尾崎さん:そうなんです、形式からしてどんどんバラバラになっていきますから。その上、資料が増えると、その受入単位でExcelも増えていくんですよ。「間違ってうっかり上書きしたらどうしよう」とか(笑)。

-考えただけで寒気がしますね(笑)。

尾崎さん:そんなわけで悩んでいた時に、当時在籍していた職員が、御社の新しいシステムの情報を入手しまして。「これなら解決できるんじゃないか」ということで、検討を始めたんです。

-なるほど。本当にご苦労が偲ばれます…。

写真-さて、かなり明確な目的を持って導入していただいたことになりますが、実際にお使いになってみてのご感想は?

尾崎さん:これからといったところですかね。残念ながら、まだ十分に使いこなせてはいないと思います。

-具体的に、「ここに苦戦している」という点などはおありですか?

尾崎さん:データの登録には少し時間がかかっていますね。

-詳しくお聞かせください。

尾崎さん:草戸千軒町遺跡のデータは日々追加されてきたのですが、「それがどこまで終わったものなのか」が明確にはわからないんです。遺物整理をするたびに登録すべき情報は増えていくのですが、代々、担当者が変わってきましたから、登録状況に関する正確な情報がなくて。

-なるほど…。「全データが登録されているかどうか、確信が持てない」ということでしょうか?

尾崎さん:その通りです。写真を登録していて気づいたのですが、画像データはあるのに、登録先となる台帳上に該当するものがなかったり。

-先ほどのシステムそのものを知る職員の方がいなくなったというお話にも通じますよね。

尾崎さん:ええ。たとえば、雇用対策事業でスタッフが一時的に充実している時と、そうでない時がありますからね。どうしてもデータの整備状況にズレが生じますから、やはり確認が必要ですよね。

-すべてのミュージアムに共通する課題だと思います。データの信頼性に直結しますから、とても重要ですよね。

尾崎さん:基礎データの整備の問題ですからね。どれだけのマンパワーを割けるのかを考えると…。

-悩ましいですね。

尾崎さん:でも、この点をしっかりと対処できれば、全幅の信頼をもってシステムやデータと付き合えますよ。

-仰る通りです。でも、データ整備は納期がない種類の仕事ですから、どうしても後回しになりますね。

尾崎さん:ですから、「少し時間がかかる」のはやむを得ないですね。

-実際にはどう対処しておられるのですか?

尾崎さん: 10分とか20分とか、少し時間ができた時にデータを整備するように心がけています。

-ずいぶん細切れですね。

尾崎さん:2~3時間もあるなら、別の業務に充てたくなるでしょ?(笑)

-なるほど! 逆に「細切れの時間」のほうがデータ登録向きかも! これはよいことをお聞きしました(メモ)。

写真-でも、インターネットでの公開は早かったですよね。

尾崎さん:これ、早いほうなのですか?

-ええ、社内でも少し話題になったんですよ(笑)。

尾崎さん:ありがとうございます(笑)。公開しているのは「守屋壽コレクション」といって、国内外の古地図を核とする近世の歴史資料のコレクションなんですよ。

-こちらですね(パソコンのモニターでページ(http://jmapps.ne.jp/hrsmkrh/)を見ながら)。世界中の古地図があって、眺めているだけで楽しいです。

尾崎さん:ほかにも、できるだけ早く公開したいものもあるんですけどね。

-たとえばどんな資料でしょう?

尾崎さん:まずは、先ほどから話題に出ている草戸千軒町遺跡の出土資料です。こちらは2004年に重要文化財に指定されています。それから菅茶山関係資料ですね。菅茶山は、江戸時代後期の漢詩人・教育者で、この資料は2014年に重要文化財に指定されました。

-なるほど。早く公開が実現するとよいですね。

尾崎さん:はい、頑張っていきますよ。

-今はスマートフォンのアプリもお使いいただけますし、公開の方法もいくつかあります。改めてご提案させていただきますね。

尾崎さん:それは心強いですね。ぜひお願いします。

-こちらこそ。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

<取材年月:2018年5月>

Museum Profile
広島県立歴史博物館 さまざまなミュージアムが軒を連ねる福山城公園内の文化ゾーンにある博物館。川底に埋もれた中世の町として全国的に有名な草戸千軒町遺跡を再現した「よみがえる草戸千軒」のほか、「瀬戸内の歴史をたどる」「菅茶山の世界」(今秋リニューアルオープン予定)という3つの常設展示室は見ごたえ十分。企画展やイベントも活発で、広島県を中心とする瀬戸内地域の「交通・交易」や「民衆生活」を学べる場として、地域の皆さんにはすっかりお馴染みのランドマークです。

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