ミュージアムインタビュー

vol.32取材年月:2007年2月茨城県立歴史館

モノだけでは「歴史」を描くことはできません。
記録としての文書資料は、決して途絶えさせてはならないと思います。
学芸部 学芸第二室 首席研究員 永井 博さん
史料部 歴史資料室 主任研究員 岡部 真二さん

-茨城県立歴史館さんは、昨年、システムをリニューアルされましたね。

永井さん:ええ、最初に導入したのは、もう6年前になりますか。入間市博物館さんに見学に行きましてね。うちは文書(もんじょ)館としてのシステムを考えていたのですが、入間市さんは文書資料もお持ちだということでしたので。すんなり決まりましたよ。

-ありがとうございます。I.B.MUSUEMはご期待にお応えできましたでしょうか。

永井さん:そうですね。私は人前で話をする機会が多いのですが、その準備で調べものも検索でさっと用意できますから、ずいぶん楽になりました。苦労もありましたけどね。

-ご苦労、と仰いますと…弊社が何か?(汗)

永井さん:いえいえ、早稲田さんの話ではなくて、システムを入れると言うことは、業務の流れそのものをいちから見直すということですので。あの時点で、開館後20年以上も経っていましたから、「やり方」を変えるのは大変ですよね。

-なるほど。業務全体を見直すことにもなりますからね。

永井さん:業務フローのチャート図づくりとかね。ある意味では、開館と同時にシステムを導入するより大変かもしれませんね、もしかすると。

-歴史がある館ほど検証作業に手間がかかる、と。確かに、そうかもしれませんね。

-岡部さんはリニューアルのときからご担当とのことでしたよね。

岡部さん:ええ、そうです。リニューアル直前に異動してきたんですよ。リニューアル前のI.B.MUSEUMに触れて感じたのは、入力のしにくさでしたね。

-と仰いますと?

永井さん:史料部のような文書館部門は、とにかく史料が多いんです。例えば、表計算ソフトのようなカタチで一気に入力できないかな、と思ったんです。

-ということは、最新版のI.B.MUSEUMもカード式の入力方法を取っているわけですから、最大の課題が解決できなかったのでは?

岡部さん:代わりに一括処理機能を付けまして。効率は上がりましたよ

-でも、ご希望を満たすには、不十分では?

岡部さん:いえ、ずいぶん良くなりましたよ。最近、過去のデータベースの誤りを見つけたんですが、それも一括処理機能のおかげで、削除と再登録は簡単に出来ました。

永井さん:おかげさまで、データベースの質・量とも、向上していけると思いますよ。

-(お気遣いいただいてるな…)ありがとうございます。他にリニューアルで変わった点はありますか?

永井さん:これまでは史料部だけのデータベースだったものを、学芸部の資料と統合して、一緒に検索できるようにしたんです。今回の目玉なんですよ。

岡部さん:それ自体はうまくいったんですが、キーワード検索主体となってしまったので、史料部のデータベースとしてはある意味レベルダウンした部分もあるんですけどね。

-レベルダウンですか? それはマズイですね。

岡部さん:こちらの問題でもあるんですけどね。文書資料を調べに来館される方というのは、かなり専門知識を持っている場合が多いんです。だから、1点ごとの史料そのものより、文書群全体の構造に関する情報が求められるのですが…。

永井さん:キーワード検索主体のシステムでは難しいんですよね。来館者向け検索で、学芸部、つまり一般の博物館資料と文書館資料を統合したところにも無理があったかな?

-う〜ん、もう少し詳しく教えていただけますか?

永井さん:例えば、古文書の「金銭受取」があったとしますよね。それがどの階層構造のものかによって、同じ「金銭受取」でも持つ意味がまったく異なってくるんですが、その階層構造が表示されないと、分かりにくいでしょう?

-なるほど、社員名だけ言われても、どこの部署の人なのか、分からないようなものですね。戻ったらSEと相談してみますね。

永井さん:まあ、私たちがそういう作り方をお願いしていたわけですから。ただ、「博物館と文書館の違い」を、早稲田さんにも吸収していっていただければ、ね

-気配りが足りませんよね。反省材料にさせていただきます。

-さて、お話をお聞きしていると怖い気がするんですが、恒例ですので。早稲田システム開発およびI.B.MUSEUMは、100点満点で言うと何点でしょうか?

永井さん:どうですか? 岡部さん。

岡部さん:そうですねえ。早稲田さんは100点だと思いますよ。

-!? まだ課題がたくさん残っていますよ。減点してください(笑)。

岡部さん:対応してくださった「人」は100点なんです。本当に一生懸命やってくださってますから。
だから「早稲田さんは100点」でいいですよ。

永井さん:そうですね。本当に感謝してます。

-ということはI.B.MUSEUMが減点…ということですね。

岡部さん:使い勝手を考えると、70点くらいかな? あくまで「文書館データベース」として捉えた場合の話なんですけどね。博物館や美術館とは視点が違うでしょうけど。

-わかりました。減点部分も明確ですし、これからしっかりやりたいと思います。他に館としてこれから目指されることはございますか?

岡部さん:まずは入力を頑張ること。あと、文書資料を見に来る方は、検索してヒットしないと帰ってしまうという傾向があるようなので、探したい資料に必ず行き着くように改善していきたいですね。

-なるほど。これからシステムを導入される方にも参考になりますね。他にアドバイスをいただけますか?

岡部さん:他の館の事例を調べると、とても参考になりますよ、と。早稲田さんも、文書館としての特性について、ノウハウを蓄積していってくださいね。

永井さん:私は日ごろ思っているんですが、モノだけでは歴史は描けませんよね。記録としての文書資料は、歴史を学ぶ、研究する上で欠かせないものなんです。古文書が今残っているということは、それが必要だから代々受け継がれてきたということですし、決して途絶えさせてはいけないものだと思うんです。そういう仕事ですので、これからもよろしくお願いしますね。

-こちらこそ、よろしくお願いします。本日は身が引き締まる思いがしました。ありがとうございました。

 

<取材年月:2007年2月>

Museum Profile
茨城県立歴史館 文書館と博物館の二つの機能を併せ持つ文化施設として、昭和49年に開館した施設です。住宅街の中にあって約72,000㎡に及ぶゆったりした敷地には、本館のほかに、移築された江戸時代の農家建築や明治時代の洋風校舎などがあります。また樹木や草花にも恵まれ、季節によってさまざまな美しい装いを見せてくれます。地域の歴史に関する豊富な資料が揃っていて、インタビュー当日も熱心に閲覧する人の姿が見られました。30年以上にわたって潤いと知性を供給し続ける、地域文化の中心地です。
ホームページ : http://www.rekishikan.museum.ibk.ed.jp/index.htm
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