ミュージアムインタビュー

vol.41取材年月:2007年9月福岡県立美術館

何よりも重要なのは、データの中身だと思います。
曖昧な部分は空けておいたほうが、データベースの信頼感が増すはず。
福岡県教育庁生涯教育課 企画主幹 西本 匡伸さん
福岡県立美術館 主任学芸員 魚里 洋一さん

-魚里さんは、I.B.MUSEUMの導入前から「桐」を使っておられたとか。その当時のことをお聞かせ願いますか?

魚里さん:ええ、館が開館10周年を迎えた時、ようやく所蔵品目録を作ることになりまして。当時は紙の台帳と総務課が作成した簡単な財産管理用リストだけだったので、詳細なデータ管理に着手することにしたんです。

-「桐」は、今でもいくつかの館で使われているようですね。

魚里さん:パソコンは元々苦手だったんですが、習うより慣れろという感じで取り組みました。それで、過去の事跡を徹底的に調べなおしましたね。でも、使える人が異動してしまったり、やはり大変でした。AccessやExcelでの管理にもチャレンジしましたが、なかなか思うようにいかず、また「桐」に戻ったり。試行錯誤の繰り返しでしたね。

-それだけ力を注いで作ってこられた「桐」のデータベースからI.B.MUSEUMへと切り替えると、それはそれでご苦労もあったのでは?

魚里さん:ええ、検索や並べ替え、表作りなど、「桐」に慣れていましたからね。でも、画像と文字情報の統合管理や、作品ごとの履歴データなどは、I.B.MUSEUMが入ったから私でもできるようになったんですよ。それに、I.B.MUSEUMは誰でも使えますしね。

-なるほど。その後、I.B.MUSEUMを導入する時、西本さんにお世話になりましたね。弊社スタッフを派遣して、入力業務をお手伝いするというプロジェクトでした。いまは県庁に異動しておられるとのこと、お時間をお借りしてすみません。

西本さん:いえいえ。あの時は、国の緊急雇用対策事業を使って、データ整備を行なったんです。魚里が作っていた「桐」のデータが基礎としてありましたので、それを入力の基礎にしました。8名の入力スタッフで、8ヶ月かかりましたね。

魚里さん:けっこう時間がかかりましたよね。

西本さん:基礎的なデータは整っていても、そのデータを登録した時点とは、表記方法が変わったり、用語の統一がなされてなかったりという場合もありますからね。どうしても確認作業が発生してしまって。

-お二方のご苦労が忍ばれます。この仕事に「楽な道」はない、ですね…。

-システム構築とデータ整備を並行して行なったことになるわけですが、不都合はございませんでしたか?

魚里さん:いま、ちょうどSEの方にお知らせして、貸出作品の一括設定や、詳細検索の不具合について調べてもらっているところなんですよ。

-(ドキ) 不具合ですか…。それは申し訳ございません…。

西本さん:WebブラウザがベースのI.B.MUSEUMとしては、当館のシステムが第1号だったそうですね。それはそれで気分がいいんですが、実務面ではシステムに曖昧な部分が残ったような気もしますね、やはり。

魚里さん:作家や寄贈者などの人物データを入力する際、宛名は別の画面で作業する必要があったり。寄託作品をお返しして寄託解除しても、その作品情報を消さずに残しておきたいな、とか。細かいところでは、いくつかありますね。

西本さん:あと、比較的大規模なシステムの割りに、マニュアルが薄めだったかも。少なくとも学芸員全員が使えるようになるには、マニュアルは大事なんですよね。もうちょっと詳しいほうがよかったかもしれません。

-いろいろとご迷惑をおかけしたようで…申し訳ないです。

西本さん:いえいえ、でもその分、いろいろ無理なお願いも聞いてもらいましたよ。確か、入力期間も延長していただきましたしね。

魚里さん: まあ、細かいところはいろいろあるとしても、全体的にはかなり馴染んできましたよ。もう少し時間をかけて構築したいところなんですけどね。

-このタイミングでお聞きするのは大変怖い気がしますが、恒例なので質問させてください。I.B.MUSEUMは100点満点で何点いただけますか?

魚里さん:そうですね。今の細かいところを引かせていただいて、70点くらいといったところでしょうか。

-ありがとうございます。何とか30点分を挽回するように、これから頑張りたいと思います。

-それでは、今回は特に、集中的なデータ整備を行なう際のポイントなど、これから推進される館の方へのアドバイスをお願いします。

魚里さん:とにかく、データの中身をきちんと整えることですかね。使用するソフトウェアよりも大切だと思いますよ。

-I.B.MUSEUMでのデータ整備でも、「桐」のデータがおおいに役立ちましたよね。

魚里さん:まあ、結果的には作業に時間がかかりましたけどね。でも、データ整備の担当を離れていた時期も地道に管理を続けてきましたから、中身については「手塩にかけて育ててきた」という思いはありますよ。

西本さん:データ整備に時間がかかったのは、主に入力者の方からご質問を受けて調べる時間が必要だったためですしね。予定より早く進んだ部分もありましたし、「図書データも一緒に整備しよう」という話が出たりして、期間が延びたわけです。

-データ整備の進め方については、いかがですか?

西本さん:そうですね。ひとつの資料があったときに、その資料のデータ項目を全て入れて次に行くのではなく、絶対に確実なもの、最重要なものを入れたら次に進む、という方法がいいと思いますよ。

-「必要な項目は全部埋めてから進む」というスタイルもよく見られますよね。

西本さん:きちんと揃っているなら良いのですが、データが曖昧な時は空けておいた方がいいということですね。そのまま埋めてしまったら、後で疑問が生じた時に、データ全体が信用できなくなってしまいますからね。

-なるほど…。お二方とも、さすがに含蓄がありますね…。

西本さん:そうそう、私から早稲田さんに提案があるんですけど、いいですか?

-ぜひお聞かせください。

西本さん:こうやってたくさんの館の人たちにインタビューされて、現場のノウハウを配ってもらうのはすごくいいことだと思います。ただ、ここに登場しているような人たち同士が、本当に顔を合わせる情報交換会みたいなものがあると、業界全体にとってのハウツーができたりしませんかね?

魚里さん:それは面白いかもしれないですね。館の間の交流もできますね。

-すばらしいアイデアだと思います。ぜひ前向きに検討してみます。今日はお忙しい中、いろいろとアドバイスまでいただきまして、大変参考になりました。本当にありがとうございました。

<取材年月:2007年9月>

Museum Profile
福岡県立美術館 昭和39年に開館した文化会館が、美術館として昭和60年にリニューアルオープン。天神の繁華街から徒歩10分、緑豊かな須崎公園にあり、ショッピングや散歩をしながら気軽に立ち寄ることができます。福岡県を中心とした九州ゆかりの作家の作品を中心に収集しており、美術資料として尾形家絵画資料、久我コレクション九州陶磁などが豊富に収蔵されています。美術関係図書を中心に3万冊の蔵書を有する図書室やビデオブース、ハイビジョンギャラリーなど施設・設備も充実し、1日中楽しむことができるカルチャーゾーンです。

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