ミュージアムインタビュー

vol.58取材年月:2009年5月財団法人 上原近代美術館

収蔵品管理システムは、館が長く使う大切な道具。
納得のいくまで議論を重ねるべき。
主任学芸員 髙見澤 こずえさん
学芸員 土森 智典さん
学芸員 渡邉 絵美さん

-導入いただいたのは3年ほど前でしたね。

髙見澤さん:ええ、でも早稲田さんとのご縁は、ずっと古いんですよ。98年ごろ、開館準備室が高田馬場にありまして、そのご縁で開館後しばらくして当時のI.B.MUSEUMを見せてもらいました。懐かしいですね(笑)。

-ご近所さんだったんですね(笑)。当時のシステムはいかがでしたか?

髙見澤さん:図書管理のシステム導入を希望していましたし、システムの内容以前に、当時は収蔵品が100点ほどしかなかったですからね。必要性が低いということで、見送りになったんです。

-一転して、システムを導入しようということになった理由は?

土森さん:作品が増えてきたことが最大の理由ですね。情報共有の必要性も高まってきましたし。

-情報共有は、導入のきっかけとして他の館でもよくお聞きします。では、I.B.MUSEUMを選んでいただいた理由は?

土森さん:美術館や博物館に特化して作られていて、骨格がシンプルでわかりやすく思えたんです。他社さんのシステムも資料を取り寄せたりしたんですけどね。

髙見澤さん:(事例集をめくりながら)こうしてたくさんの美術館でそれぞれの要望を聞いていらっしゃるでしょう? それなら、当館の要望にも対応してくださるだろう、と。最初のご縁もありましたしね。

-ありがとうございます。ご縁って大切なんですねえ(しみじみ)。

-開発は弊社の若手SEが担当させていただきましたが、ご期待にはちゃんとお応えできましたか?

土森さん:それはもう、真剣に応えてくださいましたよ。私たちもかなり無理をお願いしたのですが、本当によくやってくださったと思います。

髙見澤さん:納期が迫る中で、特殊な機能を作っていただいたりね。

-特殊な機能と仰いますと?

渡邉さん:作品ごとに展示履歴の一覧表を自動的に作る機能とか。縦軸に作品、横軸に会期が表示されるので、どの作品がどれくらいの期間展示されたのかといった情報が一目でわかるんです。

髙見澤さん:当館は、原則として収蔵品を中心に展覧会を回していますので、何度も足を運んでくださるお客様のために、偏りなくお見せしたいという思いがあるんです。

-なるほど。それは作家名を冠したような館でも使える機能ですね。日本画のように劣化しやすい作品などには「展示し過ぎのチェック」が必要ですし。

土森さん:展覧会の管理方法にもこだわったんですよ。展示室のボタンをクリックすると、いつ・どの展覧会に・何を展示したかがすぐにわかるんです。

渡邉さん:表示される作品の一覧も、当館のルールに合わせて、作家の生年順、作品の制作年順と並ぶようにしてもらいました。

-どれも、かなり具体的なリクエストですね。きちんと網羅できましたでしょうか?

土森さん:開発途中のシステムを、ネット上で見せてもらえましたからね。実際に使ってみて、「ここをこうして欲しい」と具体的にお願いできました。

渡邉さん:それを題材に、館のみんなで話し合うことができました。実際に見なければ気付かなかったこともたくさんあった気がします。

髙見澤さん:実際に書類で確認したはずの内容がSEさんに伝わり切っていないこともありましたが、この方法なら行き違いを早期に発見することができますからね。完成までのビジョンも、どんどん具体的になりましたし。

土森さん:館のシステム担当者としては、一番助かる方法かも(笑)。

-これは、弊社独自の開発手法として、たくさんの館の皆さんにお喜びいただいているのですが、私たちが思っていた以上に効果があるのですね。では、導入後もスムーズに業務に馴染んでいると思ってよろしいですか?

土森さん:もちろんですよ。あの「お試し利用」のおかげです。

-それはよかった。ホッとしました。

-さて、実際に使ううちに、ご不満な点も出てきたのではと思います。今度は、厳しいご意見をお聞きしたいのですが。細かい点でも結構ですので。

土森さん:他の美術館の方へのインタビューでも話題になったようですが、やはりブラウザの「戻る」ボタンは、反射的にクリックしてしまいますね。それと、ショートカットやコマンドキーがもっと多いといいのにな、と。

-なるほど。一般の検索エンジンのような直感的な操作環境が必要、と。

渡邉さん:検索と言えば、条件指定がやや面倒だなと思う時があります。プルダウンでズラッとたくさんの候補が並んだ中から選択するより、特定の検索項目を直接入力した方が検索しやすいかも。

土森さん:それと、検索結果が一覧で表示されると、特定の作品を選ぶチェックボックスが右側にありますよね。これは左側の方がわかりやすいと思います。重要な項目は左に出ていますからね。

髙見澤さん:そうそう、次ページに進むボタンが上に用意されていますが、下にも欲しいですね。ボタンの大きさも、もう少し大きい方がいいかな?

-な、なるほど…(タジタジ)。そのあたりは、改めて議論したいところですね。さて、I.B.MUSEUMを100点満点で言うと何点くらいになるでしょう? 挙げていただいた不満点も加味した上での点数は?

土森さん:80点くらいですかね。どうですか?

髙見澤さん:異議なし、ですね。もう少し上でもいいけど。

渡邉さん:私も同じです。100点満点のシステムというのもイメージしづらいし(笑)。

-確かにそうですね。それは、私たち開発者自身がきちんと描かなければならないものだと思います。では、今後の計画などについてお聞かせください。

土森さん:今のまま情報を充実させていって、管理・業務の水準を上げていくことが基本でしょうね。

髙見澤さん:それと、4,000冊の図書をシステムで管理したいと思っています。作品と連動した形の図書データを作りたいんですよ。一緒に開発してもらおうかとも思ったのですが、ちょっと無理だったみたいですね(笑)。

-すみません(笑)。でも、最近の技術は日進月歩ですから、より簡単に実現できる方法が出てくるかどうか、引き続きチェックしますね。では、これからシステムを導入される館に、アドバイスがありましたらお願いします。

髙見澤さん:妥協しないこと、これに尽きると思います。現場が長く使うものですから、納得するまで話し合いを重ねた方がいいですね。私たちは、開発途中のシステムを触りながら館内でも議論できましたので、このサービスをお使いになるといいのでは?

-もし弊社にご発注いただける場合は、の話ですね(笑)。でも、これだけ真剣に考えてくださることは、システム会社冥利に尽きます。また勉強させてくださいね。今日はお忙しい中、本当にありがとうございました。

<取材年月:2009年5月>

Museum Profile
財団法人 上原近代美術館 伊豆下田の郊外、鳥のさえずりが耳に優しく届く豊かな自然に囲まれた美術館。セザンヌ、ルノワール、マティス、ピカソなどの西洋近代絵画をはじめ、梅原龍三郎、安井曽太郎、川合玉堂、伊東深水などの日本近代絵画、またマンズー、マリーニなどの彫刻などと多彩なコレクションで、近代美術の息吹を満喫することができます。鑑賞を終えた後は、天城山を望むラウンジで一休み。座り心地の良いソファ、無料でいただけるコーヒーなど、温かいおもてなしの心が伝わります。

ホームページ : http://www.uehara-museum.or.jp/
〒413-0715 静岡県下田市宇土金341
TEL:0558-28-1228