ミュージアムインタビュー

vol.81取材年月:2012年6月公益財団法人 阪急文化財団 逸翁美術館

何がしたいのかがしっかり伝わるパートナーを持つ。
それがシステム導入の成功へのコツだと思います。
学芸員 宮井 肖佳 さん

-まずはI.B.MUSEUM をご導入いただく前の状況についてお聞かせください。

宮井さん:その時点ですでに稼働していたデータベースがありました。あれはACCESSで作ってあったのかな。でも、構築した前任者が退職していたので、困っていたんです。

-どんな点にお困りだったのですか?

宮井さん: 10年以上も前に作ったものだったので、データを追加したり、上書きで修正したりといったことができなかったんです。PC自体も古くなっていましたから、動きも不安定でね。まあ、寿命ということだったのでしょう。

-そこで、システムを入れ替えようと。I.B.MUSEUM をお選びいただくまでの経緯はとてもスムーズだったと伺っているのですが。

宮井さん:そうですね。当館は阪急グループの施設ですから、実はグループ内にもシステム会社はあるんですけどね。

-でも、弊社にお声掛けいただきましたね。

宮井さん:そのシステム会社に相談したところ、「自社で作ることも可能だが、専門の会社に依頼した方がローコストでできる」という助言をもらいましたので。

-最初のご相談は、その会社さんからでしたね。弊社の専門性をご評価いただいていたことを、とても嬉しく思いました。

宮井さん:美術館に特化しておられるので、学芸員の仕事について専門知識をお持ちですし、要望が正確に伝わりますよね。私が担当した社内でのプレゼンでもそう話しましたよ。

-ありがとうございます。そのプレゼン、私も聞いてみたかったです。

-ACCESSのデータをI.B.MUSEUMに移行されたわけですが、作業はいかがでしたか?

宮井さん:いえ、データ移行ではなくて、全部最初から打ち直したんですよ。

-え! まさか、データ移行がうまく行かなかったとか…?

宮井さん:いえ、導入する時期に、ちょうど当館の引っ越しが重なってしまったんです。全収蔵品をチェックしながら梱包する際、一緒にデータも点検しましてね。前のシステムには画像がほとんど入っていなかったので、スナップ写真も撮って。

-なるほど、引っ越しもデータ整備の機会として活用できるんですね…。それにしても、データの入れ直しとは、思い切った方法を取られたと思います。

宮井さん:そもそも、システム導入理由のひとつが、元のデータベースの間違いを修正したいという点にありましたからね。作業は大変でも、いったん入れてしまえば、データにはどんどん付加価値がついていきますし。

-データに付加価値、ですか。

宮井さん:ええ。たとえば同じ作品の解説文でも、テーマや用途で書き方が随分変わりますよね。「その解説は何のために、どんな判断で書かれたのか」といった情報が蓄積していくと、それ自体が情報になるのですよ。

-解説文が複数できることになりますね。奥が深いですね…。

宮井さん:ええ。でも、過去に書いた解説を複数から選んで活用できることになりますから、結局は自分たちの仕事に役立つんです。I.B.MUSEUMの場合、ユーザ個人ごとに機能の制限を付けられますから、無用な改変などの心配もなく共有できるでしょう? とても助かっているんですよ。

-それは嬉しいです。そうか、そういう工夫もあるんですねえ…(メモ)。

-ところで、何かご不満や不都合な点はありませんか?

宮井さん:いくつか「ここを改良できたらなあ」という程度のものはありますけど。たとえば、画像の一括登録とか。

-そのあたりの話については、よくご相談をいただきます。

宮井さん:当館の場合は、撮った画像をメイン画像にする時の操作を一括でできれば良い、という感じなのですが。

-と仰いますと?

宮井さん:先ほど「引っ越しに合わせてスナップを撮影した」と言いましたが、その後、もっときちんとした画像を年間で400〜500カットは撮影しているんですよ。それをまとめて登録して、該当する作品のメイン画像として使用するため操作が、もうちょっとシンプルになると良いかな、と。

-なるほど、1点ずつ登録して画像の表示順を変更するのは、確かにそれは大変ですね。戻ったら担当SEに相談してみますね。ほかには?

宮井さん:あとは、作者の登録に関する部分ですかね。作品の詳細情報を登録する際、その作者の情報を更新しようとすると、いったん作品管理画面を閉じて、作家管理画面に入り直さなければなりませんよね? 作品の画面から作家の情報を直接登録できるようになると嬉しいのですが。

-言い分けがましいのですが、作品画面から作者情報を登録できないのは、実は、一応の理由がありまして。

宮井さん:そうなんですか?

-ええ。作品画面に作者情報を直接書き込むと、作者情報の表記にバラつきが出てしまいますよね。たとえば、ある作品では苗字と名前の間にスペースを入れているのに、別の作品では詰めて作者名を入力してしまうと、データ上は「別人」になってしまいます。これを防ぐために、作品管理画面では、別に登録した作家情報を呼び出す仕様にしたんです。

宮井さん:なるほど、ではこの点はもう少し議論が必要ですね。あとは細かいことになりますが、よろしいですか?

-はい、ぜひ。

宮井さん:画面の最初に必ず表示される「システム上のID」なのですが、当館では使わないんです…。

-ああ、なるほど。非表示にできるとか、目立たない場所に移すとか、配慮が必要ですね。気が利かないインターフェイスで申し訳ないです。

宮井さん:いえいえ、ご参考までに、ということで。

-さっそく検討材料とさせていただきますね。さて、全データを見直すだけでなく、データ自体の利用価値まで視野に入れておられる宮井さんのプロセスは、他館の模範になると思います。これからシステムを導入される方に、ぜひアドバイスをお願いします。

宮井さん:いま振り返ってみると、御社の担当の方が、初めからよくわかっておられたという点が大きかったですね。その意味で、「やはりパートナーが重要」ということになるでしょうか。実際、自分では「無理かな」と思うことでも、意外と簡単に「大丈夫です、できますよ」と仰っていただいたことが結構ありましたので、気軽に相談できる相手を持つのが大事かな、と。

-「何でも言ってみる」というスタンスは、ご希望がよく見えるので、弊社としてもありがたいです。

宮井さん:きっと早稲田さんでもできること、できないことがあると思いますから、「譲れない部分」を事前にしっかり考えて、これだけは実現したいということがあれば、しっかり伝えるのがコツだと思いますよ。

-宮井さんが仰ると、とても説得力があります。本日はご多忙の中、本当にありがとうございました。

<取材年月:2012年6月>

Museum Profile
公益財団法人 阪急文化財団 逸翁美術館 阪急電鉄グループの創始者、小林一三(逸翁)氏の旧邸を活かす形で、1957年に開館した美術館。その後、50周年を期に別の館を新築し、平成21年秋から活動を再開しています。逸翁の収集品は、茶道具として用いた陶磁器や書画など多岐にわたり、特に蕪村や呉春のコレクションの充実は国内でも有名。また、付設したマグノリアホールでは、コンサートなど各種イベントも開催されています。大阪・梅田から30分以内という好立地で、いつも賑わいの絶えない人気の美術館です。

ホームページ : http://www.hankyu-bunka.or.jp
池田市栄本町12-27
TEL:072-751-3865