ミュージアムインタビュー

vol.201取材年月:2023年2月広島平和記念資料館

汎用的なクラウドであっても、自分で改善していける。
この柔軟性は、本当に大きな強みだと思います。
学芸課 学芸員  小山  亮 さん
学芸課 司書   久行 恵美 さん

-今回、専用システムからクラウドに移行されるとうかがった時は、本当に驚きました。まずは経緯からお聞かせください。

小山さん:当館では1999年からインターネットで資料データベースを公開していまして、システムは約5年おきに更改してきたんです。今回もほぼ5年ぶりの検討で、ついに刷新することになりました。

-ネット公開が1999年とは凄いですね。国内のミュージアムでは恐らく最も早いデジタルアーカイブ事例のひとつだと思います。

久行さん:来館者向けのデータベースは、もっと前ですからね。

小山さん:「平和データベース」という名前を持つからには、社会に、世界に貢献しなければなりませんので、とにかくベストを尽くすことを考えました。

-そんな志あるデータベースをほぼ5年おきに更改してこられたなら、作り込まれた専用システムになっていたはずです。にも関わらず、汎用的なクラウドサービスに移行された理由は?

小山さん:かなり大変な作業になるのは承知で、一度ゼロから見直したかったんです。もちろんパッケージのカスタマイズも検討しましたが、I.B.MUSEUM SaaSの体験版で検証した結果、「高額なコストをかけなくても、これで大丈夫なのでは?」となりまして。

久行さん:私は図書を担当しているのですが、当館の階層構造にも対応できることが体験版で確認できましたので、分類の体系や組み合わせなど新しい設計の素案を作ったんです。

-驚きました、体験版でそこまで試されたのですね。本来は弊社からご提案しないといけないのですが…。

久行さん:いえいえ、結論を出す前に実現したいことをまとめて御社の方に見ていただきましたから。しっかりしたアドバイスをいただいて、最終的な目処が立ったんですよ。

-ご検討のプロセスまで完璧ですね。いや、勉強になります。

 


-とは言っても、従来のシステムと比べると、もの足りない部分もおありでは? 図書などは本来は専用システムがあってもおかしくないくらいの規模ですよね?

小山さん:ひとりの方が博物館資料と書籍を一緒にご寄贈くださるケースがままありますので、ひとつのシステムの方が利便性が高いんです。

久行さん:構造としては、人物情報を中心に、多様な資料が繋がるようなイメージですね。たとえば、被爆資料を寄贈してくださった方の手記が別の書籍に掲載されている場合などもあり、たくさんの分野に紐付けられる形を採っています。

-さすがにイメージが明確ですね、参考になります(メモ)。機能面はいかがですか?

小山さん:図書・雑誌資料の識別コードを自動で採番する機能が欲しいですね。かなりの勢いで増えていく資料に手作業で番号を振る作業は、間違いが起こりやすいですから。

久行さん: 10桁以上ある識別コードが細かく階層化されていて、それぞれの区分の中で番号を振っていくので、単純に全資料共通の採番ではないんです。それだけに、簡単に開発できるものではないことも理解しているんですけどね。

-恐縮です。似たご要望をお寄せいただくこともありますので、これも議論してみますね(メモ)。今はどう対応なさっているのですか?

小山さん:何番まで使っているかを細かく把握しながら、入力しているのが現状です。以前のシステムでは実装されていた機能だったので、入力してもらっているスタッフの手間を増やしてしまった点ではあります。

-そんなご苦労を…すみません(汗)。しかし、そうなるとチェックがかなり大変では。

久行さん:ええ、ミス防止のためのダブルチェック体制を敷いています。でも、ほかのミスを撲滅する機会にもなりますので、自動化されるまでは今のやり方で頑張りますよ。

-以前から考えると工程がひとつ増えたことになりますよね。本当に申し訳なく思います…。

久行さん:まあまあ、逆によくなった点もたくさんありますから(笑)。

-ありがとうございます! 具体的にはどんな点でしょうか。

久行さん:資料の利用についての情報を自動で蓄積できるのは賢い機能だなあと思いましたね。「これ便利だよ」と私から学芸スタッフに宣伝したくらいですから。

小山さん:以前はExcelに資料の動きを記録していたので、一元管理できるようになったのは本当にありがたいです。ただ、日付の入力が必須なんですね。展示期間が決まっていないものがあるのですが…。

-はい、ダブルブッキングを防止する観点から、日付情報は重要と考えておりまして。

小山さん:なるほど、納得です。あとは、プレスリリースのPDFや展示の写真なども資料利用に登録できるといいなと思います。

久行さん:一覧からの編集機能も。それから、一括更新をシステムを止めずに実行できると助かります。

-(メモしながら)一覧からの編集ついては弊社でも検討中ですので、少しお時間をいただければ。ちなみに公開側はいかがですか? Web APIをご利用ですよね。

小山さん:はい、標準の公開機能だけでは従来の平和データベースの機能を再現できない部分がありますので、Web APIはとても重要です。

-デザインが素晴らしいですよね。クールな印象で、使いやすくて。

小山さん:ありがとうございます。今では、朝、出勤したらWeb APIの差分転送を行うのが日課になりました。本当は、標準の公開機能と同じように、Web APIも夜間に自動転送できると嬉しいんですけどね。そうそう、サイト側に異体字辞書を出せるとよいかな。

久行さん:そうなると、記号を検索除外する仕組みも欲しくなりますね。多くの図書館システムに搭載されている機能なので、ぜひ。たとえば、「」などの記号が図書のタイトルに含まれている場合、それを利用者が省略して入力しても該当の図書にたどり着く仕組みです。

-まだまだ足りない機能がたくさんあることを痛感しました。すべて持ち帰って検討します(必死でメモ)。

 


-長年改善を重ねてこられたシステムの後継としては、クラウドは少し荷が重いでしょうか…?

小山さん:まったくそんなことはないですよ。機能も、御社のご対応も、とても柔軟で助かっています。

-ありがとうございます。安心しました。

小山さん:当館の登録データの件数は24万件と多く、そのほかに画像も膨大にありますが、お陰様で短期間で移行することができました。しかも、その間に機能の改善までしてくださって。

久行さん:稼働後も満足していますよ。小山さんなんか、さっそく新たな分類を追加してますから。ね(笑)。

小山さん:はい(笑)。新たに「レプリカ」という分類を加えました。資料利用の機能で実物の方に履歴情報が作られないように、専用の分類を作成したんです。

-完全に使いこなしていただいているようで、本当に嬉しいです。

小山さん:クラウドサービスなのに、自分で改善していくことができると知った時は感動しましたよ。

久行さん:この柔軟性はまさに強みだと思います。もっと分類のテンプレートを用意して改善できるようにして、使い方の説明も充実させるなど、よりたくさんの館がお使いになるように、もっとアピールなさっては(笑)。

-恐れ入ります(笑)。開発チームがとても喜ぶと思いますので、社に戻ったらすぐに伝えますね。ご期待に沿えるよう、今後も改善を続けて参ります。本日はとても勉強になりました、本当にありがとうございました。

Museum Profile
広島平和記念資料館 原子爆弾による被害の実像を世界に向けて発信し、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に寄与することを目的に、1955年に開館。被爆者の遺品や写真など多様な資料を収集・展示しています。被爆者による被爆体験講話、平和学習のための資料の貸出を実施するほか、他館に先駆けてデジタルアーカイブを公開。世界的に知名度が高く、取材当日も内外から多くの来館者が詰めかけるなど、平和の実現に向けての重責を担い続けるミュージアムです。

〒730-0811
広島県広島市中区中島町1-2
電話:082-241-4004(総合案内)
ホームページ:https://hpmmuseum.jp/