ミュージアムインタビュー

vol.207取材年月:2023年8月松戸市立博物館

デジタルミュージアムから3D技術の活用まで、
博物館の魅力が広く伝わる環境づくりを進めていきます。
学芸員  西村 広経 さん

-I.B.MUSEUM SaaSのご導入から、あっという間に見事なデジタルミュージアムを公開されましたね。まずは経緯からお聞かせください。

西村さん:コロナ禍で情報発信のための予算が付いて、システム導入を私が担当することになりました。当時は着任2年目で、データ管理を引き継いだばかりだったので大変でした。

-どんな点にご苦労なさいましたか?

西村さん:まず、もとのデータを整える作業ですね。歴史、考古、民俗とそれぞれExcel等の台帳があったのですが、入力規則やデータ項目が完全に統一されていたわけではないので、部門間のすり合わせが必要で。

-他館でもよく耳にします。でも、それをこの短期間で成し遂げられたのはすごいです。

西村さん:ありがとうございます。なにぶん突然のことで準備が整っていませんでしたが、この機に一気に進めようと。確かに大変でしたが、他分野の実情を知る意味でもとても勉強になりました。

-分野間で共通項目を確立する機会でもありますよね。

西村さん:そうですね。他分野だけでなく、市内のもうひとつの施設である戸定歴史館の資料にも触れる機会がありませんでしたので、デジタルミュージアムの開設はよい経験になりました。たとえば、どの項目から検索するかが分野によって大きく違うことも学ぶことができましたし。

-考古分野なら遺跡から検索、というようなことでしょうか。

西村さん:はい。民俗なら種類から検索しますし、歴史資料の文献では日付がとても大事になります。

-考古では日付は分かりませんね。

西村さん:そうですね。ほかにも、学べたことはたくさんあります。自分が担当する分野の手法を説明する機会を持てたり、館全体でどんな資料を所蔵しているのかを把握できたり…。

-一種のトレーニングになったわけですね。それにしても、着任まもない方が担当するには過酷ですよね(笑)。

西村さん:確かに、今だから言えることではありますね(笑)。

-ほかに苦労された点は?

西村さん:データの見直しには苦戦しましたね。全角・半角の統一など細かい点だけでなく、箱単位で記録されていたExcel内に中身が記載されていないものもあったり。データはひとまず非公開にして、中身を確認しながら登録と公開を順次進めているところです。ということで、デジタルミュージアムで公開できているのは、まだ一部に過ぎないんです。

-なるほど。所蔵点数を考えると、まだまだご苦労は続きそうですね。

西村さん:先は長いですね。でも、現時点で箱の中身の確認作業に着手できたのは、システムを導入したからこそですからね。デジタルミュージアム事業の一環として、今後も画像の撮影やExcelデータの登録を進めていくつもりです。

-どこまでも前向きなご姿勢は、素晴らしいと思います。ぜひ頑張ってください。

 


-さて、デジタルミュージアム用のデータ登録以外では、どんなシーンでシステムをお使いですか?

西村さん:まずは資料検索ですね。「この資料を出してください」という利用者の方からのご要望に応じて棚番号を確認する際などは、Excel時代より劇的にスピーディになりました。あとは、クリップリストもよく使います。研究上で必要なデータをピックアップしたり、同じ時代の資料をリストにまとめたり、展覧会の準備をしたり…あれ、便利ですよね。

-幅広い用途に応用されていますね。資料利用まわりの機能はどうでしょう。

西村さん: この春に初めて使ったのですが、履歴が自動的に蓄積されていくのは感心しました。本当は年報などから過去にさかのぼって登録したいくらいなのですが、たとえば「深鉢形土器を展示した」という記載では資料を特定するのが難しいので、ちょっと無理ですね。それに、今のところ、この機能は私しか使っていませんし。

-まだ導入されて日が浅いですし、時間をかけてシステム活用が根付いていけば、履歴情報の重要性も浸透すると思いますよ。

西村さん:展示の頻度も分かりますしね。たとえば、一括して重要文化財の指定を受けた出土資料があるのですが、履歴を見ると、一部の資料だけが特に高い頻度で展示されていることが分かったりするんです。こうした情報を大切にすれば、あまり展示されていない資料を上手に活用するきっかけになりますよね。

-仰る通りですね。クリップリストとともに、展示を考える際に履歴情報を活用する事例は増えているんですよ。

西村さん:分かります。当館の場合は展示のリニューアル計画があるのですが、短いサイクルで常設展示の一部を入れ替えていくことになるかもしれません。そうなると、ご覧いただく機会が少なかった資料を積極的に展示したいですし。

-近くインターフェイスのリニューアルを予定していますので、そのタイミングでそうした機能の有用性を館の皆様にご説明させていただければと思います。逆に、ご要望などはございませんか?

西村さん:特にないですが…そうそう、入力にショートカットキーを多用できるとありがたいですね。

-ご指摘ありがとうございます。仰る通りですので、さっそく検討リストに加えますね(メモ)。

 


-それでは、デジタルミュージアムのコンセプトなどを教えてください。

西村さん:一般の方にご覧いただくことが前提ですので、画像点数を重視しています。賛否はあるのですが、スマートフォンで撮影した写真も公開しています。

-数を重視するなら、スマホ画像もアリですよね。ご方針次第になりますが、個人的には画像がズラリと並んでいるだけで楽しいとお感じの方が多いのではないかと思います。あと、団地の中のバーチャルミュージアムは素晴らしいですね。私の世代は直撃です(笑)。

西村さん:展示室でも人気のコーナーなので、ぜひこの後にご覧ください(笑)。あとは、デジタルミュージアムでは3Dモデルを増やしていきたいと考えているのですが、現時点ではWeb APIで3Dモデルは出せないようですね。

-大変申し訳ございません、改善課題としてはいるのですが…。現状では「Sketchfab」をご利用の館もあります。

西村さん:当館では、3D撮影などを行われる「路上博物館」さんと共同で、3Dデータ作りの体験講座を開催しているんですよ。個人的にもフォトグラメトリーを勉強しているところです。

-弊社も路上博物館様にはお世話になっているのですが、一般の方があの技術を学べるのですか。それは楽しそうですね。

西村さん:たとえば中学生の皆さんが体験講座を楽しんでくださったり。今後は3Dプリンタで作ったレプリカで「触れる展示」なども展開していきたいと考えています。

-ふだん接触機会が少ない層との交流だけでなく、博物館への愛着が高まりそうな企画ですよね。

西村さん:はい。デジタルミュージアムともども、今後も頑張っていきます。

-もちろん弊社もお手伝いさせていただきます。本日はご多忙の中、本当にありがとうございました。

Museum Profile
松戸市立博物館 緑豊かな総合公園「21世紀の森と広場」に立地し、見て・触れて・体全体で感じるを基本コンセプトとした感動体験型博物館。旧石器・縄文時代から団地の誕生まで3万年の歴史の息吹に触れる常設展示は見応え十分。季節ごとに開催される特別展・企画展や幅広い体験教室、さまざまな講座・講演会など、イベントも目白押しです。野外に復元された竪穴式住居は内部の見学も可能で、一日ゆっくり過ごせる魅力いっぱいのミュージアムです。


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