ミュージアムインタビュー

vol.231取材年月:2026年2月大佛次郎記念館

資料情報もさることながら、作家ミュージアムならではの
人物の世界観を描くデータベースづくりを考えてみたい。
担当リーダー  大房 奈央子 さん
研究員  江村 茉優 さん

-I.B.MUSEUM SaaSのご導入からまだ2年と少しですが、データ登録は順調に進んでいるようですね。

大房さん:おかげさまで、現状では4万7000点ほどのデータを登録できました。でも、資料は7万点ほどありますので、まだまだですね。

-それでもすごいスピードですよ。当時、すでに公開用のシステムを導入されていましたよね。

大房さん:はい、準備が整ったものから公開するというスタイルで進めていました。

-確か、オープンソースのソフトウェアをお使いで、LOD(Linked Open Data)でデータを公開しておられたとか。かなり先進的な環境かと思いますが、I.B.MUSEUM SaaSに切り替えられた理由は?

大房さん:システムがあったとは言え、資料の大半は公開できる段階にはなく、データは主にExcelで管理していたんです。なおかつ館独自の分類方法のため、若手職員には馴染みがなかったようで。

-新しく着任された方は大変ですね。

大房さん:そうなんです。ちょうど開館50周年を迎えるタイミングでもあったので、100周年まで持続可能な情報共有体制を作ろうということになりまして。

-江村さんは、まさにその若手のお一人だったわけですよね(笑)。

江村さん:そうですね(笑)。

-旧データベースとI.B.MUSEUM SaaSの違いは?

江村さん:まず、旧データベースは項目を追加できませんでした。代わりに、どこにも入れにくい情報をまとめて入れられる項目があって、そこに集約することになっていたんです。ただ、文字数制限があったので、溢れた情報はひとまずExcelに記録する…という形になりがちでした。

-なるほど。システムやExcelのデータがあっても、そのまま移行はできなかったわけですね。

江村さん:はい。そこで、現物との照合を行いつつ、分類ごとに項目体系を見直すことになりました。

-棚卸し的な機会としては有益ですが、かなり重労働だったのでは。

江村さん:そうですね。御社のご担当にもアドバイスをいただきながら、項目設定を何度もやり直して。期日までに旧システムで公開していた同じ点数のデータを公開しなければならなかったのですが、おかげさまでギリギリまで項目を詰めることができました。

-大変な状況の中で目標を達成されたのはすごいですよね。お疲れさまでした。


-さて、日々I.B.MUSEUM SaaSをお使いの中で、何か気になることはございませんか?

江村さん:システムの使い勝手とは直接は関係ないのですが、公開方法で少し迷うことがあります。

-どんなことでしょう?

江村さん:たとえば、同じ書籍で版が異なるものがたくさんある場合、管理側は1点ずつ別物と捉えますよね。でも、その考え方で公開すると、同じ本が大量に並ぶことになります。

-なるほど、利便性の観点でどうか、ということですね。そうした場合は「初版だけを公開する」といった具合に割り切った方針の館が多いように感じます。

大房さん:では、「全集の中の各作品」ならどうでしょう?

-下の階層で個別にデータを作って、上の階層にあたる「全集」に紐付けると正確に表現できますが、登録作業がかなり大変になります。実務的にどこまで可能なのか、という視点でお考えになるのが現実的かと思いますので、よろしければ改めてご提案いたします。

大房さん:ぜひお願いします。

-かしこまりました(メモ)。操作面ではどうでしょう?

大房さん:画像をまとめて公開することはできますか?

-はい、可能です。実際の画面で方法をご説明できますので、必要になった時にお気軽にお声掛けください。

江村さん:それはありがたいです。写真が数千点もありますので、どう扱えばよいのか困っていて。

-資料に対する写真ですか? それとも写真そのものが資料ですか?

江村さん:写真自体を資料として扱いたいです。

-その場合は、「写真」という大分類にまとめるとスムーズかと思いますので、こちらも操作をご説明しますね。ところで、新しいインターフェイスはいかがですか?

大房さん:直感的で、クリック数が少なく済むようになりましたよね。まだ旧画面の公開設定画面などが新しくなるのを楽しみにしています。

-ありがとうございます。完全移行までお時間をいただいておりまして恐縮ですが、いましばらくお待ちください。


-では、今後進めたいことなどは。

大房さん:現在は二つ目の公開ページを「大佛次郎旧蔵 ポール・ルヌアール版画コレクション」に使っていますが、これからこのページをモノ(収蔵品)ではない作品のデータベースに充てたいと考えています。

-モノではない作品、ですか。書籍や資料ではなく、書誌という意味でしょうか。

大房さん:ええ、ほかにもエピソードなど形にならない情報なども含むんですけどね。

-もう少し詳しくお聞かせ願えますか?

大房さん:書誌のほかにたとえば大佛自身の蔵書についてのデータとか。個人の記念館だからこそ、作品以外にも集まってくるものもかなり多いんです。実際、当館には作品とこうした関連情報についてまとめた発行物もありますし。

-大佛次郎に関する「なんでもデータベース」といったところでしょうか。構築は大変そうですが、作家の名を冠したミュージアムとしてひとつのモデルケースとなりそうです。個人ミュージアムの真骨頂でもありますよね。

大房さん:仰る通りですね。

江村さん: I.B.MUSEUM は分類や項目をカスタマイズできますから、このように登録する資料の幅が広がっていく時にはすごく便利ですよね。

大房さん:理論上は無限に枠を作れるので、あとはひたすらテキストデータ化を進めなければなりませんが、いずれAIが進化すれば貢献してくれるかな、と。その上でデータ同士の関連づけも進むと、大佛の人となりについても知ることが出来る非常に興味深いデータベースになると思うんです。

-それで思い出したのですが、ある大学が創設者の日記のテキストデータ化を試みた事例がありまして。日記のある部分とそこに関係する資料や蔵書がリンクしていくと、その人自身に対する理解が深まるんですよね。そんなイメージでしょうか。

大房さん:そうです、まさにそれです。当館でも、データの入力をお願いしているスタッフから、「毎日が楽しい」と言われたことがあります(笑)。

-入力の業務自体が新しい気づきの連続ですもんね(笑)。

大房さん:そうなんです。そんな体験を、デジタルアーカイブを通じて多くの人に提供できるような気がしませんか?

-します! まさにデジタルアーカイブの魅力そのものですよね。素晴らしい視点だと思いますので、個人的にも「モノではない作品のデータベース」の完成を楽しみにしております。本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。

 

Museum Profile
大佛次郎記念館 『パリ燃ゆ』『天皇の世紀』『帰郷』『赤穂浪士』『鞍馬天狗』など多数の傑作を残した作家、大佛次郎の業績と生涯を紹介するミュージアム。地元・横浜の港と街を見下ろす「港の見える丘公園」に映えるアーチ型の屋根と赤レンガの洋風建築でも有名で、7万点にものぼる図書や雑誌、自筆原稿、遺品などの資料や、愛猫家だった大佛が愛した猫の置物も多数展示。名建築と文学の世界にゆっくり浸ることができる人気のミュージアムです。

〒231-0862 横浜市中区山手町113
TEL:045-622-5002
ホームページ:https://osaragijiro-museum.jp/