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わせだマンのよりみち日記

2022.12.20

突如、眼前に現れた日本画家のドリームチーム ~徳島市立徳島城博物館 訪問記

#現地訪問

今回は、徳島県への出張です。この日にお邪魔したのは、徳島市立徳島城博物館。旧・徳島城表御殿庭園の素晴らしい風景を満喫できるガラス張りのロビーでの打ち合わせの後、館内を見学させていただくことに。またまたありがたいことに、今回も学芸員さんの解説付き。このところ、幸運続きです。

お城の博物館というと、藩政時代の詳細資料、あるいは代々の藩主に伝わる名品といった展示を想像しますね。ところが、この日に開催されていた特別展にいざ足を踏み入れると、目の前に広がっていた光景に「え?」と声が出そうになりました。と言うのも、門外漢の私でも聞き覚えのあるレベルの近代日本画の大家たちによるコレクションがズラリ、これでもかという勢いで並んでいたのです。まさに圧巻、ひと目で圧倒されました。

写真撮影は原則として禁止なのですが、今回はブログに掲載するための展示室内の様子についての資料ということで、特別にお許しいただいた写真がこちら。ともかくご覧ください。

いかがですか、この濃密過ぎる空間。それも、写っている一点一点のすべてが名品、本当はもっと間隔を空けて掛けられていて然るべき作品たちを一気見状態という特別感。加えて、作家のラインナップがまた半端ではありません。ざっと挙げてみると、富岡鉄斎や横山大観、下村観山に菱田春草、河合玉堂、小林古径、速水御舟、竹内栖鳳、橋本関雪、鏑木清方、上村松園…。いや、本当に贅沢過ぎますでしょ、これ。ご解説くださる学芸員さんに「よろしいのですか? こんなに一度に鑑賞させていただいて」とその場で訊ねましたから。

特別展のタイトルは、『阿波藍商の〈たからもの〉』(すでに終了しています)。出品作品は、江戸時代から吉野川流域で発展した藍商で、明治以降は酒造や紡績などにも携わった名望家・素封家の家に伝わる品々、通称「藍商コレクション」からの82点です。しかも、今回の展覧会は、何とこのコレクションの初お披露目とのこと。つまり、今回の出張では、この特別すぎる展覧会にたまたま遭遇したわけです…何たる僥倖!

これほどの作品群が現代まで人知れず守られてきたというのは、それだけでちょっとした驚きと言ってよいでしょう。1945年7月に徳島を襲った空襲の直前に当主が郊外に持ち出しため、間一髪で難を逃れたのだそうです。身一つで避難するのも大変な戦時中に、これだけの作品を無事に運ばれたとは、想像するだけでヒヤヒヤします。とすると、こうして展示されていること自体が、もはや奇跡のようなものなのですよね。よくぞご無事で…。

それにしても、個人の蒐集品としてはずいぶん幅広く、バランスもよいように思えます。購入先が大手百貨店だったからでしょうか。図録を見ながら当時の百貨店の「品揃え」に舌を巻いていると、解説の中に「大正期のコンテンポラリーアート」との言葉を発見。なるほど、「当代一流の現役作家」の作品を買い求めた結果、百年後の私たちの目には「近代日本画家のドリームチーム」のように映るコレクションが完成したわけですね。

学芸員さんにご案内いただいているにも関わらず、いくつかの作品の前で立ち止まり、お待たせしてしまいました。いま、出品目録と図録で振り返っていますが、思わず足が止まった作品は「空気」が感じられるものが多かったように思います。大観の『如意ヶ嶽』からは霧に煙る山々の湿った空気が、御舟の『鶏雛』からは生命を取り巻く優しくあたたかな空気が、そして清方の『七夕』からは夏の夕刻のひんやりした空気が。当時の日本に想いを馳せる贅沢な時間を過ごすことができました。

今回はその奇跡的なエピソードに驚かされましたが、よくよく考えてみると、歴史的な美術作品はいずれも時代を超えて生き続けているわけですよね。そんな宝もののような存在と相対できるミュージアム、その歓びを改めて噛み締める機会となりました。

最後に庭園の写真を1枚。学芸員さんによれば、マンションが映らないように撮影するのがコツとのことですが…。池の周囲をうろうろした結果、諦めて撮ったのがこの写真です。開き直ってド真ん中にマンションを置いたのですが、いかがでしょうか。時空を超えてここにある作品を鑑賞した後だけに、この「混在感」はむしろアリなのではないかと思いました。

 


【取材協力】

徳島市立徳島城博物館 岡本 佑弥さん

https://www.city.tokushima.tokushima.jp/johaku/