ミュージアムインタビュー

vol.137取材年月:2018年7月博物館明治村

歴史的な建物の一部でもある多種多様な資料の
価値をもっと広く皆さんにお伝えしていきたいですね。
主任学芸員 中野 裕子 さん

-この炎天下に、たくさんのお客さんで賑わっていますね。さすがは明治村さんですね。

中野さん:ありがとうございます。2代目の館長が、明治村は「建物ひとつひとつが博物館だ」という方針を打ち出したんですよ。

-歩いてみて、その通りになっていると思いました。ではさっそくシステムについて話を伺いたいのですが、I.B.MUSEUM SaaS を導入される前はどういう状況だったのでしょうか。

中野さん:明治村には歴史資料がたくさんあって、大半がMicrosoft Accessでデータベースを作っていました。当時詳しい職員がいて、写真も紐付けていたのですが、その職員が異動になったりして、維持が難しくなったんです。近隣の博物館にも相談しながらいくつかのシステムを調べたのですが、私たちの目的に合うものがなくて…。

-何か特殊な目的がおありだったのですか?

中野さん:ええ。明治村は建物のテーマパークと、多くの人が博物館だとは捉えていないと思います。歴史資料をたくさん所蔵しているのですが、実は他館の学芸員の皆さんにもあまり知られていないんです。

-なるほど…。

中野さん:インターネットで簡単に資料情報を公開できるものを探していたところに、御社のクラウドの話をお聞きして。では使ってみよう、と。

-つまり、最初からネット公開に特化することをお考えだったのですね。

-予定通りデータも公開されていますね。順調そうに見えます。

中野さん:ありがとうございます、ようやく…といった感覚なんですけどね。まずは見た目が楽しくて画像データが整っているものを優先して、少しずつ進めています。

-現在の公開データは、どんなジャンルが中心ですか?

中野さん:版画とか、錦絵とか、引き札とか。

-いいですね! ご苦労なさっているのは、Accessの元データがあっても「やはり点検が必要」というご判断ですか?

中野さん:その通りです。データそのものの見直しも必要ですし、たとえば錦絵と家具では必要な項目が違いますから整備したいですし。元になるデータがあっても、やはり時間はかかりますね。

-こちらは、どんな資料が多いんですか?

中野さん:その建物にあった美術品や家具など、建物に付随する資料ですので、特徴的なジャンルというのはないですね。強いて言えば歴史的価値があるもの、たとえば「北里研究所本館・医学館」に関連して関係者の方々に教えていただいた医学関連の資料を収集したり…。

-その建物のこと、弊社の北里柴三郎記念室さんの担当スタッフが言ってました。建物に資料が付いてくるんですね。

中野さん:そうなんです。日本赤十字社中央病院病棟がこちらに移転された時も、明治10年ごろから昭和16年ごろまでの文書を受け入れました。明治時代に起こった濃尾震災や三陸大津波の救護活動に関する記録などもあるんですよ。

-ものすごく重要な資料ですね。災害時に役立ちそうなデータなのでは。

中野さん:そうなんです。日赤さんがこちらに看護大学を作って、図書室の一角に特別収蔵庫を用意してくださったので、資料はそこに保管されています。

-私も東日本大震災のボランティア活動に関わったことがあるのですが、災害時の記録の重要性を実感することがありました。

中野さん:だからこそ、情報を共有できる環境が重要なんですよね。いまは日赤さんがデジタル化も進めてくださっています。本当は私たちがお預かりしたときにやれれば、もっと早く災害時の参考情報として役立てたのではないかと思うんですが…。

-日常の仕事をこなされながら、これだけ多岐にわたる資料データの整理をなさっているわけですから。むしろ、先ほどからずっと「その作業にこそ弊社がお手伝いできるのではないか」と感じているので、考えをまとめてみますね。

-それにしても、凄い建物がたくさんありますね。どれくらいあるのですか?

中野さん:現在は64棟あります。高度成長期以降、取り壊されようとしている歴史的価値の高い建物を移築しているうちに、数が増えたんです。

-本当に頭の下がる事業ですよね。心底、素晴らしいと思います。

中野さん:ありがとうございます。でも、急いで移さざるを得なかったものなどは、周辺調査が不十分なものもあります。中には、移す前に押し入れの中にあった資料が、そのまま押し入れに戻され、資料登録されずに長年放置されたものもあり、今もまだ、歴史資料の整理は完全には追いついていない状況です。

-展示もされていますよね。建物が分かれているので大変なのでは。

中野さん:そうなんです。それぞれの建物で、関連資料を展示したり、室内再現展示することがあるのですが、本当は「この資料はこの建物で展示中」とか、「一定期間、同じ資料の展示が続いた建物の中は展示替え」といった情報も、システムで管理できるようにしたいんですけどね。

-現在は、公開用のデータはI.B.MUSEUM SaaS で、それ以外は主にAccessで管理されているわけですよね。いずれは情報に一元化が必須になると思います。

中野さん:仰る通りです。現在は、ネット公開が主目的ですが、作業用や業務用のデータもすべてI.B.MUSEUM SaaS にまとめていかないと。

-作業のご負担があまりにも重すぎるので、いきなり完璧に仕上げる必要はないですよ。情報内容の充実化は継続していくとして、まずは全資料データがひとつのシステムに入っている状態を作ることが重要だと思います。

中野さん:言われてみると、犬山城の現城主のお祖父様からお預かりした蔵書が15,000冊ほどあるのですが、まだデータベース化ができていません。「これも検索できたら便利だろうな」とは思っていました。

-まず、大きな方針を決めるとよいですよ。資料群ごとの状態がおおまかに分かる簡単なリストを作ってみてはいかがでしょう。システムへのアップロードは、おそらく弊社のサポートスタッフもお手伝いできると思います。

中野さん:なるほど、それなら可能かな…。

-資料群ごとの優先順位もお決めいただいて、弊社サポートが訪問する前に当日の議題をご指示いただけば、いろいろと対策を準備した状態で伺えるのではないかと思います。

中野さん:なんだか前に進めそうな気がしてきました(笑)。

-それは何よりです(笑)。でも、外から見る限りでは、正直、ネット公開は順調と思っておりました。恐らく、他のミュージアムでも起きていると思いますので、弊社の課題です。

中野さん:今日のように深くお話しできる機会があればよいのですけどね。ここまでのお話しだけでも、こちらも気付いたこと、思い出したことがたくさんありましたので。

-皆さんがふだんは引っ込めてしまっている疑問やご要望を引き出して、一緒になって解決できるようにならないと。

中野さん:私たちの側としても心強いです。今日来ていただいたおかげで、システムを活用する方向性が見えた気がしますし。

-「博物館の集合体」である明治村の魅力を、資料データの公開を通じて広めていくために、弊社も一緒に頑張ります。本日はありがとうございました。

 

<取材年月:2018年7月>
Museum Profile
博物館明治村 高度成長に伴う大規模開発などで、歴史的、芸術的に価値の高い明治期の建築物の多くが取り壊されていきました。これらを後世に残すため、谷口吉郎博士(初代館長)と土川元夫氏(元名古屋鉄道株式会社会長)の協力によって誕生したのが、博物館明治村です。たくさんのミュージアムが広大な敷地に点在していて、丸一日かけてのタイムトリップを楽しみながら歴史を学べる稀有な存在。開館50年を超えてなお輝きを放つ大人気施設です。

ホームページ : http://www.meijimura.com/
愛知県犬山市字内山1番地
TEL:0568-67-0314