ミュージアムインタビュー

vol.169取材年月:2021年6月八戸市埋蔵文化財センター 是川縄文館

計算したら将来的なコストも有利になることから、
クラウドシステムへの移行を決心しました。
副参事(学芸員) 小久保 拓也 さん
主事兼学芸員   山田 貴博 さん

-いきなり個人的な話で恐縮ですが、こちらの開館前に一度、ご提案をお持ちする機会をいただいたことがありまして。

小久保さん:是川縄文館の開館準備室の立ち上げの頃ですね。

-え、ご存知なんですか!

小久保さん:はい(笑)。当時、御社からご提案を受けた担当者と同じ部署にいたんです。

-それは驚きました。その節はお世話になりました。(笑)

小久保さん:こちらこそ。と言っても、結局コスト的に手が出ず、かと言って市販製品もなかったので、地元の業者さんにお願いしてクライアント&サーバ型のデータベースを作っていただきました。

-あの頃は主流でしたね。でも、埋蔵文化財のデータベースは一般的な博物館資料より複雑になりがちですし、構築にはかなりご苦労なさったのでは。

小久保さん: 「GISと連動させて地図と遺構・遺物を一体化しよう」とか、夢は大きく持っていました。でも、包蔵地の台帳から遺跡を、出土品から資料を、報告書から図書を…と、それぞれ連携するデータベースを作るところまでは実現できました。

-それはすごいですね! 気が遠くなるようなデータ量になると思いますが、具体的にはどんな段取りで?

小久保さん:まず指定品・重要文化財を登録して、それに関連する遺跡を登録して…というように、取捨選択しながら進めていきました。

山田さん:今はI.B.MUSEUM SaaSに移行しましたが、作業は継続して進めています。重要文化財は登録が終わっていますので、かなり進んだと思います。

小久保さん: まず、1999年から開館した2011年までに発掘されて報告書に掲載されたものを対象としました。概ね8〜9割まで進んだといったところですね。

-いや、本当に頭が下がる思いです。画像データも一緒に作業されたのですか?

山田さん:はい、一緒に。古い報告書はフィルムのものもありますので、そちらについては撮り直しの作業を行いながら進めています。

小久保さん:当初に対象としていた分はゴールが見えてきたのですが、開館以降に発掘されたものも登録しなければなりませんので、まだまだ続きます。

-そうか、積み重なっていきますもんね…。人手は足りているのでしょうか。

小久保さん:作業をお願いしているスタッフがベテラン揃いで、毎日一定の時間をデータ整備に割いています。修理や撮影も含めて進めていますので、どうにかやっていけるんじゃないかと思っています。

-素晴らしいチームワークですね。全件登録、ぜひ頑張ってください。

 


-少し戻りますが、お話をうかがう限りでは、地元業者さんご構築のシステムも十分に機能していたご様子ですよね。そんな中、I.B.MUSEUM SaaSに切り替えられた理由は?

小久保さん:サーバ更新を考えるタイミングで、改めてコストを計算してみたんです。クラウドを導入すると、移行時だけでなく将来的にも費用が抑えられることが分かりまして。時代は進んだんだなあと痛感しました(笑)。

-それは提供する側も同じ思いです(笑)。機能や使い勝手の面ではご不安はありませんでしたか?

小久保さん:当館が検討する頃には、導入館がずいぶん増えていましたからね。収蔵品管理システムは館ごとにこだわりがあるはずですから、これだけの数が実際に使っておられるなら、きっと熟成を重ねてきたのだろう、と。

-なるほど、お見通しですね(汗)。導入時点でデータがかなり充実していたことになると思いますが、移行は問題なかったでしょうか。

小久保さん:その点は、やはりいくつかありました。厄介なのは「データ構造の違い」です。どこをどう移行させるかについては御社に伺いながら、頑張って、理解したつもりだったのですが、結果的にうまく結びつかない部分もあって。

-お手数をおかけして申し訳ございません。修正はどうされているのですか?

山田さん:導入後は、見つかるたびに何とか自分たちで対応しています。一括更新の機能も使っていますが、たとえば複数登録した画像の表示順が意図通りでないデータが見つかった場合などは、その場でひとつずつ修正しています。

小久保さん:システムの仕様上、どうしても違いは出ますから。ある程度は仕方がないですね。

-新旧システムのデータ項目のマッピングは細かな仕様の比較が重要になりますが、同時にどうしても限界が生じやすい部分でもあります。確認作業を進める上でお手伝いできることがありましたら、ご遠慮なくお申し付けください。さて、登録以外では、どんな場面でシステムをお使いですか?

山田さん:企画展の準備などですね。あとは、借用や調査依頼の際に資料を探す時とか…。

小久保さん:それに『ポケット学芸員』ですね。御社で紹介されている事例を参考に、当館も地元高校の放送部にナレーションを依頼したんですよ。

-それはよかったです。ポケット学芸員の利用方法の工夫は、ちょっとした流行のようになっていまして(笑)。経緯などを少し詳しくお聞かせいただけますか?

小久保さん:放送部の顧問の先生に直接お声掛けしました。ちょうどコロナ禍で放送部のコンクールが中止となり、晴れ舞台が消えていたところだったとのことで、ふたつ返事でOKをいただけました。

-なるほど、ここが高校生の皆さんの貴重な晴れ舞台になったわけですね。

 


-さて、データ活用について、次の展望などは描いておられますか?

小久保さん:登録したデータの公開ですね。従来のシステムでは来館者用端末で検索サービスを提供していましたので、I.B.MUSEUM SaaSでそれを復活できればと思っています。見やすいデザインやレイアウトのフロントページを用意して、それを入り口にデータベースへとつながるリンクをつなげて…という感じで。

-いろいろなアイデアを反映できそうですね。完成が楽しみです。

小久保さん:それには項目の再整理が必要になりますし、管理システム側の項目レイアウトの見直しなども発生しますので、じっくり取り組みたいと思います。

-なるほど。よろしければ、弊社もお手伝いさせていただきますので、その時はご相談くださいね。

山田さん:それは助かります、ぜひ相談させてください。

小久保さん:それから、将来的には、遺跡の3Dデータなどが公開できれば面白いと考えています。

山田さん:発掘調査で見つかった遺跡は、埋める前に撮影して3Dデータ化したものや、赤外線スキャナで撮影して断面などが見られるものなど、新しい技術が次々に登場しています。

-面白いコンテンツになりそうですね! I.B.MUSEUM SaaSも大容量画像を登録できるようになりましたから、あとはストレージのコストをもっと下げることができれば、そのような大容量データの公開もできるかもしれません

小久保さん:先の話ではありますが、ぜひ可能性を広げていきたいですよね。

-はい、弊社も頑張ります。本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

Museum Profile
八戸市埋蔵文化財センター 是川縄文館 史跡是川石器時代遺跡に隣接し、市内の埋蔵文化財を調査・収蔵・展示に加えて体験型のイベントでも人気のミュージアム。平成元年7月に風張1遺跡から出土し、平成21年7月に国宝に指定された「合掌土偶」が有名です。是川石器時代遺跡から出土した縄文時代の漆器や木製品など、当時の工芸技術や芸術性が伝わる出土品の展示も見応え十分。「北海道・北東北の縄文遺跡群」の世界遺産登録で存在感を増す、注目の歴史系スポットです。

ホームページ : https://www.korekawa-jomon.jp/
〒031-0023 青森県八戸市大字是川字横山1
電話:0178-38-9511